「異議あり!弁護人の主張は矛盾している!」
私は目の前の青い男に、人差し指を突き付けた。
今日は隣に真宵くんを連れていない彼は、いつものように冷や汗をダラダラと流している。
まったく、ハッタリが武器だという割に焦りは顔に出る奴だ。
しかし奴は直ぐに資料を漁り始めた。
このように追い詰められた場面で、人の揚げ足を取って難癖を付けて、細かいことを突っ込んできた挙げ句、いつの間にか立場を逆転させるのはこの男の得意技だ。
ああ、その顔は…何か、見つけたのか?
「…残念だったね、御剣検事。この写真が全てを物語っている!」
…なんだ。そんなことか。
「…異議あり!その時間帯の被害者の行動を考えれば、なんら不自然なことではないと言える!」
「…ぐっ」
成歩堂が呻く。そんなものを検察側が見落とすとでも思ったか…馬鹿め。
「くっ…じゃ、じゃあコレは!」
「ドレだ」
「ソレだよ!」
「…全くもってお話にならん!」
ビシッと人差し指を真っ正面の男に突き付けた。
裁判長も大きく頷いている、もう弁護側に勝ち目はないだろう…
そう思いふと成歩堂の顔を見ると、何かいつもと様子が違う。
頬が赤く染まり、呼吸が少し苦しそうだ。眉根を寄せた彼は、私をじっと見つめている。
「弁護人、体調でも悪いのか?」
「…やめてくれ、御剣…。お前に気を遣われると…ぼくはもうどうにかなっちまいそうだ」
「は?」
わけのわからないことを呟いて……何故、赤いネクタイを緩めているのだろうか。
やはり体調が悪くて苦しいのか?
思っているうちに、彼はYシャツのボタンを全て外してしまった。
「…な、な…何をしている!?」
傍聴席がざわめく。それも構わず、成歩堂は私に資料を突き付けてきた。
「この部分を見てください。…不自然だと思いませんか?」
…な、なんだ?まともに裁判をする気はあるようだが…
成歩堂が突然前をはだけた以外は普段の法廷そのものの空気に変わる。
仕方がないので反証を探していると…
「!?」
成歩堂が弁護側の机を、土足で乗り越えるのが見えた。
とんと天板を蹴り、弁護側と検察側の間あたりに降り立った成歩堂。
呆然として眺めていると、左手に資料を持った彼が近付いてくる。
…右手で自らのベルトを緩めながら。
「な、な、な」
いまだかつてない事態に脳が固まっている。裁判長すらも驚いて何も言わない。
そうしている間に、成歩堂は検察側の机に乗って、私の程なく近くにいた。
「き、貴様土足で神聖な法廷の机を!」
やっと出てきた言葉がそれだった。
しかし奴は意に介さず、私に資料を突き付けてきた。
「ここの文章が見えるかい?御剣検事」
「あ…?ああ…」
「解りませんか?」
…言っていることはマトモなのだ。
だが紙を机に置いた彼は、片膝を床につきもう片膝を立てた、忍者か王子のようなポーズを取っていた。
机の高さでちょうど私と目線が合い…彼は私に…口付けた。
「―――!?」
逃れようとするもそれは不可能で、深く舌を入れられる。
法廷で、衆人環視で、あってはならない事態だった。
引き剥がそうとする私の身体を抱き寄せ、無理矢理に口内を暴かれていく。
ざわめく声が響く中、私の耳にはいやらしい水音が聞こえ、頭が変になりそうだ。
こんな状況でも気持ち良いのが、つらい。
「んっ、ん――ッ」
成歩堂に突然唇と身体を解放され、力が抜けて机にへたり込んでしまう。
それと入れ替わりに彼は床に降り、私の背後に回り込んだ。
「な、成歩堂…貴様は一体…」
こんなことをしていたら逮捕されてもおかしくない。
今すぐ止めさせようと諫めるが、彼は喉を鳴らして笑った。
「法廷のお前、エロいんだもん。そりゃ興奮して勃っちゃうよ」
耳元で囁かれて頭が真っ白になる。
ダメだ、こいつはもう止まらない…経験でわかった。
突っ伏すように机に上半身を預けた私の上から、彼の身体が覆い被さってくる。両手を包まれ、項に口付けられてしまう。
「ぁ……こらっ」
抵抗しようとした私の両手首を、彼は机の上に片手で押さえつけてくる。
どうしてだろう、力が入らない。
項にキスをし、私のベルトを緩めている…
「裁、判長…!この男をつまみ出せ!」
このままではまずいと思った私は壇上の裁判長を見上げて叫んだ。
呆けていた彼もハッとして目を見開く。
カツンと木槌が響くのに、成歩堂が一瞬だけ動きを止めた。
「成歩堂くん!こんなことが許されると思っているのですか!」
「……ええ。此処にいる皆さんが黙ってさえいれば…ね」
私から成歩堂の顔は見えない。
だが…その一言でざわめきが嘘のように止んだ。信じられないことに。
「さぁ、御剣…ちゃんと資料を見て」
奴はついに私のスラックスのジッパーを下ろした。
ひっかかりのなくなった赤いそれが重力に従って床に落ちる。
下着もずり下ろされて、私はあまりの羞恥に顔を伏せた。
何だというのだろう、この状況は。
「くく…興奮するね…」
低く笑った彼の高ぶりが、私の臀部に押し付けられる。その硬度に思わず喉が鳴ってしまう。
「駄目だ、止めろ成歩堂…ッ!」
「…お前も興奮してる癖に」
「え、ぁ…!?」
いつの間にか私自身は、立ち上がってしまっている。
それを揶揄され、握り込まれて擦り上げられる。
私のことを全て知った手淫に抗う術などなく、一直線に高められる。
彼の言うとおり、私もこの異常な状況で興奮しているのだろうか。
気持ちよくて腰が震えてしまう、どうしたら良いのかもうわからなかった。
「ん、…く、ぅ」
唇を噛んで耐えていたが、突然刺激がなくなった。
振り返ろうとするも、彼の指が私の奥まった場所に触れるのに気付いて再び顔を伏せる。
傍聴席からはおそらく、彼の指がどこに触れているのかまではわからないだろう。
ぐ、と太い指が入ってきた。先ほどまで異議を唱えながらつきつけられていた、あの指が。
「ぅあ…っ」
キツさと、期待に、思わず声が洩れる。
ダメだ、こんなのは。そう思っているのに、いつも通り私を掻き乱す指に翻弄される。
違う、そこじゃない。もっと奥の、感じる場所を…
「ふあぁあ…!」
指先が、ごりごりと前立腺を擦る。気持ち良すぎて上げた大きな喘ぎが法廷に響き渡る。
「駄目、だめ…っ成歩堂、成歩堂ッ」
「何がダメなんだ?反証には証拠がないとね、御剣検事」
「嫌、やだあぁあっ」
「ちゃんと顔上げて、みんなに見せてあげなよ。お前が感じてるって証拠を」
顎を掴まれ上を向かされる。
大勢の視線が私に向けられて、羞恥に涙が零れていく。
お願いだから見ないでくれ、こんな私を。
「そろそろ…お前の身体に尋問してあげる」
指が引き抜かれて、焼けるように熱い塊が押し当てられた。
抵抗する間もなく、太く熱い肉棒が押し入ってくる。
それはぬるぬるとしていて、彼が如何に欲情していたのかを私に伝えた。
すっかり馴染まされた私の身体は、その熱が体内を余すことなく埋めているという事実だけで快楽を感じてしまう。
もう…堕ちるだけだ。
多数の人間の視線に晒され、神聖なる法廷で行われる、狂った性行。
だがもう、この先どうなろうと、全てどうでもいいと思えるほどに、良い。
バックの体勢で入り口を擦られ、前立腺を突かれて、ただ喘ぐだけだ。
「…法廷での完璧なお前を陥落させるの、夢だったんだ」
「あ、ああ、ぁん!いい…」
「やらしいね、御剣…これがお前の本性なんだよ」
成歩堂の低い囁きと共に、意識が真っ白になった。
「御剣、おい!御剣!」
「…!?」
彼の声で目を開くと、いつもの法廷だった。
成歩堂はきちんと服を着て、弁護士席にいる。
私も…服を着ている。
「…なっ」
事態が飲み込めずにあたりを見回したが、おかしなことなど何もない。
ああ、そうか。今の出来事は全て……私の願望を表す白昼夢。
狂っているのは彼ではなく、私の方だった。
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