もう盆は越えたというのに、相も変わらずの猛暑。
街が夕焼けに染まっても、焼けたアスファルトからはジリジリと熱気が伝わり、まるで鉄板のようだ。
しかしその上を歩く男は、三つ揃いのスーツを着こなした挙げ句、首には白い布を巻いている。
涼しげな表情で歩く彼の横には、青いスーツを完全に着崩した男。
上は第二ボタンまで開け放したYシャツ一枚だというのに、腕まくりまでして暑そうにしている。
しかも口には、水色のアイスをくわえている始末だ。

「ぅあああああああ暑い…」
「我慢しろ…」

声までだらしない男に苦笑する。

「おい成歩堂、溶けているぞ…」
「え?あ、ぅわあ」

成歩堂がくわえていたアイスの下の方が溶けて雫になり、持ち手から彼の腕に伝う。
焦りつつそれを身から離すと、次の雫はアスファルトに落ちた。
すると鉄板に水でも落としたかのように小気味良い音が聞こえ、蒸発していく。

「うっわ…どんだけ暑いの…」

とっとと帰ろう、と呟いて、残ったアイスを無理やり一口で食べる。
そのせいで頭がキーンとしたのか成歩堂はバタバタ暴れている。

「痛ぇ!もう!」

騒がしい彼にもある程度慣れているらしい御剣は、ふと足元を見た。
そこには蝉が落ちていた。
この時期よく見る光景だ。
踏まないように避けると、食べ終わったアイスの棒を噛みながら成歩堂が言う。

「夏って感じだよね」
「ああ…」

もう慣れてしまっている為にあまり気にならなかった音。
意識すると途端に、蝉の声が五月蝿いほどに聞こえてくる。

「元気だよね…この暑いのに。」

ガリガリと木の棒をかじる彼は、そこまで言うと言葉を止めてまばたきをした。

「まぁ、そりゃそうか。やっと地上に出られたんだし」
「…ああ」
「…あー…コンビニだ、コンビニ寄ろうコンビニ」

何の脈絡もなく話題を変えた彼は、
御剣が頷いてもいないのに勝手に道沿いのコンビニエンスストアに入って行った。
仕方がなく店に入る。
そこでビールやら何やら、体の冷えそうなものを買い込んでから、2人は成歩堂のアパートに戻った。


「くぁーっ!夏はこれに限るね!!」
「キミはオッサンかね」
「立派なアラサーよ、もう」

仁王立ちで腰に手をあてビールを一気飲みする成歩堂に、
もう完全に呆れた御剣はシャワーを浴びに風呂へ足を向ける。
それに気付いて、後を着いていく成歩堂。

「ぼくも」
「私が先だ」
「だから、一緒に」
「…仕方がない奴だ」

そんな他愛もないやりとりをしていると、不意に成歩堂の腕が御剣に絡む。
後ろから抱き締められ、驚いたように脚を止め振り返るYシャツ姿の御剣。

「…どうした?」
「やっぱ止めた」
「…っ」

背後から回された腕がYシャツに侵入してくる。
御剣はびくっと震え、抗議するような目をした。

「…おい、いきなり何だ…」
「我慢出来なくなっちゃったんだよ」

ぷちぷちとボタンを器用にはずして脇腹を撫で上げる手は、ビールを握っていたせいか冷たい。
窓を開けて扇風機を回してはいるが暑い部屋で、その手が心地良く感じて振り払うのを思い止まった御剣。
そんな様子を空気で感じ、まだ片手に持っていたままだったビールの缶を白い肌に近付ける。

「ぬぁっ!?」

脇腹にくっつけると、御剣は大きく身を跳ねさせた。

「…もうちょい色気ある声出してよ」
「ふ、ふざけるな…ッひあ!」
「そうそう、そういうの」

完全に前を開け放した状態のシャツ。
脇腹から腹筋に辿り着き、なで上げて胸の突起に缶をあてると彼の甲高い声が上がる。
それを聞いてニヤニヤと笑い、更に刺激を与えようと角の部分を滑らせると、
小さな突起がぷくりと高度を増して色づく。

「ん…んん…」

御剣には抵抗する気はないようで、吐息を洩らして壁に手を突いた。
はだけきったシャツを取り去りながら、彼の性感帯を弄り続ける。
冷たさに身を捩るも、新鮮な感覚に感じた声が洩れ聞こえ。
コンビニでよく冷やされた缶が熱気で結露していき、その雫が白い肌を伝う。
胸の突起を濡らしゆっくりと流れるその先は、きっちり履いたままの赤いスラックス。
じんわりと臙脂色に滲み、僅かなシミを作る。
後ろから悪戯をしていた成歩堂がいつの間にか正面に回り込み、その水滴の軌跡を舐め上げた。

「ふ…ぅん」

ビールの缶は反対側の壁際に置いて、緩やかに跳ねる彼の顔を見上げながら、徐々に上を目指す。
割れた腹筋に温かい舌が這うのに、身震いした。

「成歩堂…」
「んー…?」
「窓が…」
「良いよ、蝉の声で聞こえない」

そう言って、辿り着いた粒にぱくんと食いついた。
缶ビールが当たっていたそこはひんやり冷えて心地良いが、すぐに熱を吸って人肌の温度になっていく。

「――〜っ」

御剣は壁についていないほうの手を成歩堂の肩にのせ、彼の愛撫を受け入れる。
遠くに聞こえる蝉の鳴き声と、明後日の方向を向いた扇風機。
今日の最高気温は35℃。

額を汗が流れ落ちても、その体温を拒もうとは全く思いもしない。
指先で、舌先で乱されながら、ふと成歩堂の言葉を思い返す御剣。


『この暑いのに、元気だね。
まぁ、それはそうか。
やっと地上に出られたんだから。』


蝉というよりは、まるで自分たちのことではないかと思った。
ようやく求めたものを手に入れたのが嬉しくて、この暑いのに体温を欲しがって。
アスファルトに焼かれる彼らも同じ気持ちなのだろうか?

「なぁ、成歩堂…」
「…?なに、御剣」
「――あッ」

かり、と歯を立てられて、御剣は声を洩らす。
成歩堂を見ると、彼の黒い瞳と視線がかち合った。

「いや、何でも…」
「え、何ソレ…?」
「…何でもない」
「気になるだろ?」

胸から離れ耳元に寄せられた唇が吐息を洩らす。
ゾクンと駆ける痺れに瞳を細めると、視界の端で彼の指先が動くのが解る。
ベルトを外され、暴かれていく。

「何だって…聞いてるんだよ」

床にすとんと落ちるベルト付きのスラックス。
立って向かい合ったまま、成歩堂の指先が御剣のものに絡む。

「…ぁ…」
「言って」
「蝉…だ」
「…?」
「蝉のことを、考えていた…」

隠しても仕方がないと、素直に話すと成歩堂は少しおかしそうに笑った。

「恋人にこういうことされながら考えることか?」

その指先が、悪戯に先端に爪を立てる。
小さく声を上げて成歩堂の肩を掴み、御剣は息を吐く。

「…蝉は、空を知っているのだろうな…」
「どういうこと?」

手のひら全体で包み込み砲身を扱き上げながら問いかけられ、乱れ始める呼吸を抑えて言葉を続ける御剣。

「…ずっと地中にいても、誰に聞かなくても…知っているのだろう」
瞼を臥せ呟く彼の揺れる睫毛を見上げ、成歩堂は床に膝をつく。
その肩に手を載せていた為に少しバランスを崩し、御剣は瞳を開けて壁に寄りかかった。
言葉の続きを促すように見つめる成歩堂。

「…土から、這い出て、彼らは何を思う…だろうか?」
「…暑い、って思うだろうよ」
「……かもな、…っ、ぁあ!」

急に自身を口に含まれて、びくんと身が震えた。
赤く腫れたそれのくびれを唇で吸い舌で舐められて、言葉の代わりに喘ぎが洩れる。

「御剣の、びくびくしてるよ」
「うるさ…いっ、ん…」
「それで、御剣はどう思うの?ぼくに聞いてきたからにはさ、何かあるんでしょ?」

尋ねた直後にも関わらず、まるで妨害するように舌先の動きを激しくして。
口元を手で押さえて横を向く御剣に、微笑みながら促す。

「ね」

逆らえず、時折震える体を壁に預けながら見下ろす視線。
少し濡れた瞳。

「…ん…嬉しい、と…思う。」

熱く焼けるような地上に放り出され、自分の寿命を知っても、嬉しいと思うだろう。
そう喘ぎ混じりに囁く御剣の話を静かに聞きながら、その後孔に指を伸ばした。
すると銀の瞳が驚いたように開く。
構わずに腰を抱き寄せて、そこを指で広げていく。

「んっ…ぁ、あぁ…」

前への刺激も止む事はなく、慣れたそこが節くれだった指を飲み込んでいく。
異物感に若干強張る体を溶かすように開いている手で腰のラインを撫でる。
はぁ、と熱い溜め息を吐いた御剣の中に侵入した二本の指が、ゆっくりと上下し始め、湿った音が立った。
室温は蒸し風呂のように暑く高まる心音も相俟って、ふたりは汗だくの状態だ。

「はっ、ン…ぁ、ひぁっ…!」

内部を探り見つけた前立腺を突かれ、裏がえった声が上がる。
同時に指をきゅう、と締め付けられ、成歩堂は喉を鳴らした。

「かわいいね、御剣」
「あ、あ、あ、やぁ!や、め…」
「…ご冗談を」

さんざん開発され尽くして頭が白くなるほどに感じる部分を、遠慮ない指先が愛撫する。
それに加えて先端に歯を立てられては、呆気なく何も考えられなくなる御剣。

「あ、ぁ――ッ、ア、ぁふ、…」

快感が痺れとなり腰がガクガクと震え、力が入らなくなる。
膝がかくんと折れ、壁伝いに崩れ落ちる身体。

「…立ってられないくらい気持ちいい…?」

同じ目線になって、成歩堂は嬉しそうに笑い、肩で息をする御剣を床に押し倒した。
抵抗する力も気もなく、なすがままになって彼は潤んだ瞳で見上げる。

「ぁ…成歩堂…」
「…挿れても良いよね?みつるぎ…」

耳元で低く甘く囁かれ、ぞくぞくと這う寒気にも似た感覚。
これ以上されたら頭が変になりそうで、涙を零し左右に首を振る。

「…大丈夫だよ」

安心させるように笑ってみせ、頭を優しく撫でる指先。
それを見上げていた御剣は、きゅんと胸を締められるような感覚に襲われる。
どくどくと体の一番奥まで心音が響き、冷たかった床さえすぐに熱を持ち、
汗が滴って小さな水たまりを作っていく。
ぽたりと白い身体に雫が落ち、それにすら身を震わせる御剣。
そんな様子が愛しいと思いながら、両脚を持って左右に割り開き、秘部を露わにさせた。
期待にひくつく箇所に熱い塊をあてがうと、虚ろな銀の瞳が揺れた。

「ぁ、や…だめ…っ」

掠れる制止の声も無視して、ゆっくりと肉棒を押し込んでいく。

「ァ、ぁぐぅ、ぅ…」

少し苦しげな声を洩らし、フローリングを引っ掻く指先。
爪を傷つけそうだと慌てて捕らえ、手のひらを向けさせて指を絡める。
両手をそのようにすると、逃げることもささやかな耐える行為さえ出来ずに、身体が震えた。
半分埋め込まれたものを徐々に進めていき、成歩堂はその熱さとキツさに息を吐く。

「…は、っ…」
「――ぁん…ッ」

その雄らしい色気を含んだ吐息が耳元にかかり、たまらず声を洩らす御剣。
彼は存外に、成歩堂のこういった声や吐息が好きだ。


「ほら…全部入ったから、動くよ…」

そんな熱い視線で見ないで欲しいと、いやもっと見て欲しいとすら思う。
緩やかに開始される突き上げの合間に、断片的に。
膝を抱えられ、揺さぶられる。
床が固く背中が軋んでも、受け入れることは酷く心地が良かった。

「あ、ひ…ぁう…!」

擦り上げられ、簡単に声を上げさせられる。
子供が啜り泣くような、尾を引くような喘ぎ。
一定のペースで、感じる部分を突かれ、最奥まで貫いて、引っ掻きながら、抜いて、また押し込んで。
その度に体が高まっていく。

「あ、ぁあ、ふ、ぁあ――、成、なる…ほ、ど…」
「え…御剣…?」

高ぶり過ぎた快感と、感情が零れた。
瞳から雫となって、目尻を伝う。

「ぁ…ぁ…ふ、っく…」

腰の動きを止め、成歩堂が心配そうに覗き込んでいる。
止めなくては、と思っても、喉の奥を締め付けるような嗚咽が洩れるだけで。
両手を取られたままの状態では隠すことすら出来ず、ボロボロと涙を零した。

「御剣…、ごめん御剣。痛かった…?」

成歩堂が申し訳なさげに眉を下げ、宥めるように頬にキスを落とす。
それを受け、御剣は左右に首を振った。

「ち、が…」
「…違うの?」

尋ねると、御剣は答える為になんとか呼吸を整えようとした。
しかし涙はなかなか止まらない。
涙でぐちゃぐちゃになった瞳で、真上にいる男を見上げる。

「…嬉、しくて…っ」

絞り出すような言葉に、成歩堂はキョトンとした表情を浮かべる。

「……ぼくとこうするのが、嬉しいの?」

尋ね返され、頬を赤く染めて頷く御剣。
その姿を見て、成歩堂は照れたように笑った。

「…ありがとう」

繋ぎ止めていた両手を外し、ギュッとその体を抱き締める。
何度か唇にキスを送ると、まだ涙の止まらない御剣も成歩堂に腕を回した。

「…嬉しい、のだよ…熱くて、死にそうでも…」
「…?蝉の話?」
「いや、私の話だ」
「御剣の?」
「……、続けて、くれないか…?」

話をはぐらかすような甘い誘い文句に、成歩堂は乗ることにした。
抱き締めたまま、いきなり強く突き上げる。

「あ!そんなっ…ぁあ!」
「ふふ、泣くほど、気持ちイイんだね…?」
「ン、ち、が…ぁ!ひっ!」

まだ溢れてくる雫を舌先で舐めとり、腰を揺らす。
触れ合った箇所から溶けていってしまいそうな熱が、
夏のせいなのか己の内から湧き上がってくるものなのか解らない。
どちらでも良いから、早く溶け合い一つになってしまいたいくらいの。

「あぁ…すき、すき…なるほ、っあぁ!」

冷たい地面から這い出した蝉。
ずっと恋焦がれた青空の下。
その熱に灼かれ、
短い命を尽くして、
切なく泣き続ける。
刹那を鳴き続ける。
喉を枯らして愛を歌う。

「ぼくもだよ、好き、愛してる…!」

蝉の愛する青空。
蝉を愛する青空。

二人は抱き締めあったまま、果てた。



END



スランプ極めました。小説ってどうやって書くんだい…
こんなアレでも書き上げるのに13日かかりました…
8月のうちに上がって本ッッ当によかった…(涙
しかしパソサイトに反映させるの忘れてた;
ちなみにタイトルの「現身」読みは「うつせみ」です。