「おい、成歩堂!欲しい物はあるか!?」

突然、鬼気迫る表情で尋ねられた。

「え…え?」

「早く答えろ!」

「あ……電球が…欲しいかな…」

ぼくは焦りながら、そう答えた。
玄関の電球がチカチカしているのを思い出してそう言ったら、御剣は怪訝な表情
を浮かべてぼくを見つめる。

「…そんなものが良いのか…?」

「…?うん、切れてるし、欲しいなぁ」

「ならば買ってやる」

「え!」

ガムも請求するようなお前がいきなりどうして?って言おうとしたけど、言葉は
止まってしまった。
御剣がぼくの手をしっかり掴んだからだ。

「さぁ、行くぞ!」

無理やり事務所から引きずり出されてしまった。




「…みつるぎ、どこ行くの?」

無理やり押し込められた赤いスポーツカーが滑らかに走る。
ぼくが尋ねたのは、近所の大型電気屋を御剣がスルーしようとしたからだ。
助手席から彼の顔を見つめると、前方を見て運転する目を離すこともなく答えた。

「デパートだが…」

「…電球買いに?」

「ああ」

こいつは…電球を買いに行ったことがないのか?
お前のいきつけの高級デパートにはシャンデリアはあるかもしれないが、電球な
んて売ってないぞ。
行ったことないけど、多分ね。

「電球なら、電気屋が良いと思うよ」

「……電気屋?」

「ほら、今行き過ぎた…」

「……ッ何故早く言わないのだ貴様は!」

いや、まさか知らないとは思わなかったからだよ。
なんて言える訳もないので黙っていたら、御剣は溜め息を吐いて左にウインカー
を出した。
二回左折して、裏から電気屋の駐車場に入る。

「狭いな」

御剣の車がデカすぎるのも手伝って駐車スペースは確かにちょっと狭い。
御剣は助手席のヘッドレストに腕を回し、バックし始めた。
ぼくが車の免許がないからかもしれないけど、あまりに鮮やかな手際に見える。
しかも…顔が近い。真剣な表情を浮かべる彼の、さらさらな銀髪が目の前で揺れ
て、肩を抱き寄せられている気分になる。

…女の子が男のこういう仕草にやられるって意味が解る気がした。

ぼくがぼーっと御剣に見とれていると、いつの間にか駐車し終わっていた。

車高の低い車から降り、一緒に建物に向かって歩く。
二人で電気屋なんて少し新鮮な感じだ。
何だか少し嬉しくなって、ちょっとだけ前を歩く御剣に駆け寄った。
手を繋ごうとしたら、すごい勢いで振り払われたけどまぁ、良いか。

エスカレーターを上がると、売り場が見えて来た。
携帯とか、音楽プレイヤーがディスプレイされている。
御剣は、エスカレーターを下りると動かなくなった。

「ど、どうしたんだよ?」

「…電球はこんな場所に売っているのか?」

「……あっちにあるよ」

世間知らず、って言ってやりたかったけど思い留まって、ぼくは照明器具のあた
りを指差した。
御剣をそっちを見て、すこし納得したように頷いた。

「すごいな…電気屋というのは…」

「そうかな…」

御剣が何に感動しているのかイマイチよく解らないが、可愛いから良いか。
電球のある方に向かって歩き出すと、御剣はきょろきょろしながら付いてくる。
おまけに何かブツブツ言っている。

「…あれは何だ…CD?何故電気に関係がないものを売っている?コンポがある
からついでということか…?ム、コピー用紙などもあるのか…確かに効率的かも
しれないがな。……っ…何故トノサマンフィギュアがこんな場所に!!?しかしこれ
は持っているものだな」

確かに電気屋でプラモ売ってるのは謎だよなー、なんて思うけど。
興味津々の彼はほっておいて、電球を見始めた。
品番は…これだな。
寿命で値段変わるのか…どうしよう…
あ、そういえばあいつが買ってくれんだっけ。
理由は解らないけど、まぁくれるって言ってるんだから貰おうかな。
高いのにしても良いかなぁ…御剣。

「あれ…?」

いつの間にかあいつがいない。
見渡す限り、どこにもいなくてちょっと焦った。
電気屋ってはぐれると困るんだよな…

端の棚から見ていくしかないな…

きょろきょろしながらあいつを探すけど見当たらない。
身長高いし赤いしヒラヒラだからすぐ見つかるかと思ったんだけどな。

「うーん…」

もう一周してしまった。
困ってふと目線を下ろすと…いた。
身長的に上ばかり見ていたから気付かなかったらしい。
それよりも、何やってんだ?

「御剣」

「ん…?ああ、成歩堂。なかなか良いぞ、これは」

彼が座っていたのはマッサージチェアだった。一番高いやつだ。
ご丁寧にふくらはぎまで付属のエアークッションにマッサージされながら、御剣
がこっちを見る。
立ち上がる様子がないから、ぼくも隣のに座った。
スイッチを入れると、揉み玉が動き出す。肩かな、やっぱ…

「あー、これ意外と効く…」

「ム…」

ちらっと御剣の方を見ると、眉間のシワがなくなって完全にリラックスしている

疲れてるんだろうなぁ…。今度からたまにはマッサージしてあげよう。
なんて思ってたら、御剣の唇から吐息が洩れる。

「はぁ…、っ…」

…って…ちょっとリラックスし過ぎじゃないのか!!?
表情も良い感じで、思わず飛びかかりそうになっただろ…
こいつ危ないよ…いや危ないのはぼくか?いや、危ない危ない。フェロモンが服
着て歩いてるみたいなもんだよ。もう。

「ねぇ、御剣」

「なんだ…」

「電球、高い方にしても良い?」

「ん…ぅ…。何でも構わない…」

御剣はそのまま、機械の行程が終了するまで15分間、立ち上がらなかった。
寝てるんじゃないかってくらい、くつろいだ幸せそうな顔をして。
そしてようやく立ち上がり、スーツのシワを直したと思ったら、店員を呼びつけ


「これをくれたまえ」

なんて言うんだから。
それ20万するんだけど。
カードで一括ね…

「さて…電球を買うか」

「ああ、うん」

こいつの狂った金銭感覚に、もう驚かないぞ。
電球が一万円くらいすると思ってそうで怖い。
ぼくが選んだ物を差し出すと、御剣はそれを受け取りレジに向かう。
ああ、本当に買ってくれるんだ…


「ほら」

「ありがとう」

ビニール袋を渡され、駐車場に向かう。
マッサージチェアは後日配送されるようだ(当たり前か)。
エスカレーターを降りたところに自販機があるのが目について、近付いた。
小銭を探して財布を漁っていると、ぼくのあとをついて来た御剣が自分の財布を
開けた。

「…いくらだ?」

「え?」

「そのくらい買ってやる」

「は?いや、良いよ別に!」

ぼくはびっくりしてしまって、左右にブンブン首を振った。
その隙に、御剣は自販機にコインを投入してしまった。

「早く選びたまえ」

自分で買うって言ってるのに!と内心は思ったが、入れてしまったからには早く
選ばなくては。
決めてなかったぼくは焦って、何故か炭酸のジュースを押した。
ゴトン、と落ちてきたものを取り出して、やっと御剣を見る。

「…ぼく、そんなに貧乏そう…?」

「…?違うのか」

いや、違う!違わないけど…と言おうとしたら、名前を呼ばれ遮られる。
缶コーヒーを買って取り出しながら車に向けて歩き出すから、隣を歩きながら耳
を傾けた。

「どうした?」

「いや…この後行きたい場所はあるか」

「え?いやいや、ぼく一応仕事中だから。帰るよ」

そもそも、ここにだって来る予定なかったんだけど。
真宵ちゃん可哀想だからね、と続けた。

「……!」

ごく真っ当な答えのはずなのに、御剣が駐車場の車道で立ち止まってしまい、驚
いて彼を見る。

「…御剣?」

声をかけるとハッと顔を上げ、ああ、とだけ言った。
それ以上言葉を続けず、彼は車の横まで行ってしまって。
不審に思いながらも車に乗ると、いきなり手を掴まれた。

「…!?」

御剣の右手が、ぼくの左手をぎゅっと握っているのだ。
顔を上げて目に入った彼の表情は、…なんか、怒ってる…?

「…キミは…」

でも、声色はどこか違う。
少し震えている。
理由が解らなくてその銀の瞳を見つめると、俯いてそらされた。
屋根のある立体駐車場は薄暗くて、それ以上表情を伺えない。

「仕事だったな、すまない」

きゅ、と握った手に力が篭もるのが解る。
黙って彼を見つめると、途切れ途切れの声が耳に入る。

「浮かれてしまったのだ…考えてみれば、一方的だったのだな。一緒に誕生日を
過ごしたいなどと…」

「……ん?」

誕生日?
え、待って待って。
御剣お前、変なコト言ったよ。
御剣の誕生日は過ぎただろ?
じゃあ、


「………誰の?」


ぼくの声が気まずそうに響く。
いや、実際気まずい。
気付いてしまったからだ、御剣の行動の意味を…

問われた御剣は、一気に顔を上げる。
顔に書いてある、って表現も分かろうってもんだよ。
はてながいっぱい。

「あのね…ぼくの誕生日は、来月だよ」

多分そういうことだったんだろう。
1ヶ月ズレてる。

「な、なんだと…ッ!!!」

御剣は目を見開いて反射的に後ろに下がり、ガラスに頭をぶつけた。

「ちょ、大丈夫か?」

身を乗り出して彼の後頭部を撫でてやると、うぅ…と呻きながらハンドルに顔を
うずめてしまった。
ぼくの誕生日を間違えたのがショックだったのだろうか…?

「御剣、だから電球くれたのか…?」

できるだけ刺激しないように、優しく聞いてみた。
こういう時のこいつは、驚くほど弱いからな…
全て考え尽くして行動しているからだろうか、イレギュラーな事態が起きるとフ
リーズしてしまうのだ。

「ありがとね、嬉しいよ。」

柔らかな髪を撫でて、正直な気持ちを伝える。
別に気にしなくても良いのになぁ…
祝ってくれる気があると分かっただけで十分だ。

「……私は馬鹿か…。」

心底呆れた時の声で、御剣は自分を責めている。
車の空調の音に混じって聞こえる溜め息。

「ね、顔上げて」

そうお願いすると少し間を置いてから、ハンドルにうずめていた顔をぼくに向け
る。
でも視線は合わせてくれない。
苦笑しながら身を寄せ、唇にキスすると、さっきより驚いた表情が見えた。

「な、っ」

きょろきょろあたりを見回す様が可愛くて、今度はほっぺたにキスする。
後ずさった御剣は、またガラスに頭をぶつけた。

「き、貴様こんな場所で…」

「薄暗いから大丈夫だよ」

「し、かし」

「に…してもさ?」

「…?」

「誕生日プレゼントが電球って酷くない?どうせなら、マッサージチェアが欲し
いな」

ニヤッと冗談ぽく笑って見せると、御剣は一瞬固まった後でぼくの手からビニー
ル袋を奪い取った。

「キミは誕生日ではないのだろう!返してもらうからな!」

「え、」

「さぁ…帰るぞ!」

恥ずかしさやらショックやら色々入り混じって、御剣の眉間のヒビが増えている

高らかに宣言した彼の指がキーを回して、サイドブレーキを下ろす。
こんなに動揺してて、運転出来るのか?
若干心配ながら、車は発進する。
大通りに出て、ハンドルを指先で叩きながら彼はため息をついた。
表情は少しだけ落ち着いたかもしれない。

「…電球だけじゃない」

「…え?」

小さな声が聞こえたような気がしたから、御剣の顔を見る。
相変わらず大真面目に前だけを見て、一呼吸。

「他にも準備してある…。」

「え」

「しかし今はやれん」

プレゼントがあるの?
1ヶ月後にくれるってことかな?

「な、何…?」

「秘密だ」

「え、でもあるんだろ?待てないよ!」

「何故誕生日でもない人間にやらねばならんのだ!」

そう怒鳴った御剣の顔が赤いような気がする。
…この感じは、本当に怒ってるんじゃない。
照れ隠しの時によくする顔だ。

「…『プレゼントは私だ』とか……痛ェ!!」

いきなりぶん殴られた。
左手だけで運転を続ける御剣の、ぼくの腹にめり込んだ拳。

「ふざけるな」

そして引かれた拳がぼくの目の前に差し出されて…開かれた。
同時にその手から、銀色のものが滑り落ちる。
反射的にキャッチしてみると、それは鍵だった。

「…?御剣、鍵落としたよ…」

「そんな不自然な落とし方をするか!!!」
…確かに。
じゃあ何?この鍵は。
そもそもどこのだよ。
混乱するぼくを一瞬だけチラ見して、御剣は口元に笑みを浮かべた。

「…マッサージチェアをくれてやることは出来ないが…好きな時に使いたまえ」

「…!」

「返せ」

「…!?え、くれるんじゃないの!?」

「1ヶ月後にな」

「そんなん待てないよっ!」

ぼくはそれを、自分の胸ポケットに押し込んだ。
これは多分…合い鍵、で良いんだよな?御剣の部屋の…

運転しながらで、深追いは出来ずにムぅと唸る御剣だけど、多分今日くれるつも
りで見せたのだろう。
ひねくれ者。

「ね、行って良い?今夜」

「……まだマッサージチェアは届かないが?」

「馬鹿、ぼくがお前をマッサージするんだよ」

「そ…そうか?それならば…」

「…性的な意味で」

…再びぶん殴られたのは言うまでもない。




終わり

紫貴さま!大変お待たせ致しました。
15000hitリクエスト「ほのぼの」だったんですが…
ほのぼのって何?
…精いっぱい頑張ったんですが…ごめん。
これからもよろしくお願いします。

紫貴さまのみお持ち帰り下さいませ!