「レイジくーん!トリックオアトリート☆」

「…は?」


執務室の机に向かっていた御剣は、突然開いた扉に視線を向ける。
そこには珍妙な格好をした男が満面の笑顔で立っていた。
吸血鬼のコスプレだろうか、黒の布に赤い裏地のマントを羽織っている。


「……ああ」


御剣はたっぷり3秒間考え込んだ後、デスクサイドにあった飴を投げて渡す。


「それでいいですね?信楽さん」

「ちょっ…レイジくん酷くない!?なんか日に日に扱い悪くなってない!?」

「気のせいでは?」

「まぁいいや…ミクモちゃーん♪トリックオアトリート!」


ちょうど御剣の執務室に居合わせ、ソファーで寛いでいたミクモ。
話しかけられると、これまた満面の笑顔で信楽に飴を差し出した。


「うぅ……悪戯させてよー」

「飴あげたじゃないですか」

「もういいよ秤ちゃんのとこに行くから…」

「…はぁ…せいぜいお気を付けて…」


肩を落として去っていく信楽を眺めたあと、御剣は再び執務に入ろうとする。
しかしそれまでは大人しくしていたミクモが立ち上がって傍に来たため、御剣はそちらを見上げた。


「…どうした?」

「そういえば今日ってハロウィンなんですよね…!」

「うム、そうだな。日本ではあまり馴染みのないイベントだが」

「そう!それなんですよ!」


突然ミクモのテンションが上がった。机を叩き、目を輝かせて御剣を見つめる。


「な…それとはどれだ?」

「いいですか、御剣さん。日本ではあまりハロウィンにお菓子を渡す習慣がありません。あってもせいぜい飴くらいでしょ?」

「ああ…確かに」


御剣は先ほど信楽に渡した飴の残りを見た。いちごミルクの可愛らしい飴は、某オバチャンにポケットに無理やりつっこまれたものだ。


「…持っていなかったら信楽さんに悪戯されていたのだろうか」

「それはもう!ハグじゃすまされませんよ!」

「…?ハグは悪戯とは違うのではないか…?」

「甘いですね、御剣さん」


ミクモは一呼吸おいてから、腰に手を当てて御剣を指差し、高らかに叫んだ。





「性的な悪戯ですよ!!!!」





暫し2人の間に沈黙が走った。


「…すまん今何かおかしなことを口走らなかっただろうか」

「これはもはやBL界では数十年前から不変の真理ですよぉ」

「BLとはなんだ」

「……まぁ、兎に角。ハロウィンにかこつけて性的な悪戯をする輩が多いんですよ!」

「ほぉ…それは…知らなかったな」


御剣は素直に関心した。そんなふざけた理由で性犯罪が増えると本気で主張するその精神に対してだ。


「そんなわけで…飴はお預かりします」


ミクモは御剣の手からいちごミルクの飴を掠め取った。流石大泥棒、なかなかの手練である。


「な、何故だ?悪戯されろと言うのか?
いや、まさか信楽さん以外にそんなバカなことを考える人間がいるハズもない。
それにいたとして私に悪戯などして楽しい筈が」


グダグダと独り言を始めた御剣の耳元に、ミクモはスッと唇を寄せた。
そしてごくごく小さな声で、囁く。


「……成歩堂さんが来るかもしれませんよ」

「……な゛っ」


変な声が出た。思わずムセた御剣はなんとか抑えようとテーブルの紅茶をがぶ飲みする。


「なななななななな成歩堂が来る筈ないだろう!」

「さー、どうでしょうか?悪戯にかこつけてキスくらいされちゃうかも知れませんよぉ」

「……!!?」


何故だ何故だ何故バレているのだ!私が成歩堂をに片思いをしていると!何故!!


「って顔に書いてありますよ御剣さん」

「………」


御剣は顔を真っ赤にして机に突っ伏してしまった。
完全にオーバーヒートしている。


「じゃっ、頑張ってくださーい☆」






独りきりになった執務室で御剣はうずくまり呻き続ける。

落ち着け落ち着け落ち着け御剣怜侍。
何故バレていたのかはもうこの際どうでもよろしい。

問題は成歩堂が来たらどうするかだ。
いや来るはずがないな、あいつはイベントには疎そうだ。
しかし真宵くんあたりがそういうのを好きそうだからもしかしたら…

いやいやいや。来るとして菓子をたかりに来るだけだろう。ああ、それでも会えるのは嬉しいな。
いや違うそうではない!しかもたかられても菓子などない!
そうしたら悪戯されてしまうのだろうか…何をされるだろう…

具体的には全く思い浮かばないのだが………解らないな。



……性的な悪戯…



うわあああああああ!!!!
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや彼がするわけないな、しかもこの私に。
だがもしも…もしもされたら…私は…

ああ、何をされてしまうのだろう…
き、キス…とか…ミクモくんが言っていたな…

もしかしたらその先も…?

クラバットを解かれて服を脱がされて…お前がお菓子をくれないからだぞ、御剣。
とかなんとか囁きながら…彼の手が私の体を…………ああ、ああっだめだ…!!
そんな!!そんな場所を…いや、成歩堂!




完全に脳内がお花畑に飛んで行ってしまった御剣を現実に引き戻したのは、ノックの音だった。


「…ふぁっ!はい!どうぞ!」


半ばキャラが変わってしまった御剣が促すと、扉が開いた。
そこには、御剣が今の今まで妄想していた人物。成歩堂龍一が立っていた。

…しかも、信楽と同じ吸血鬼のコスプレをして。



「御剣、トリックオアトリート☆」

「………ない」

「えっ?」

「菓子はない」


あまりの驚きに御剣はカタコトで答えた。しかも表情は混乱を極めてむしろいつも通りの仏頂面。
しかし成歩堂はさして気にする様子もなく、デスクに歩み寄ってきた。
青いスーツにマントという珍妙な出で立ちだが、恋する御剣には見とれる対象でしかなかった。


「…お菓子ないのか、仕方ないなぁ」


椅子の真横まで来た成歩堂を見上げ、御剣はその姿にうっとりとする。…やはり表情には出ていないのだが。


「じゃ…悪戯するよ、御剣」


丸い瞳に細められた瞼が影を落として、御剣に向けられる。
その口元にある牙が何故かよく似合っている、そんなことを考えていた御剣が言葉の意味を理解したのは実に5秒後。


「………は?」

「だから、悪戯するから。…ソファーに移動しようか」

「なっ?なっなっなっ何故ソファーに?」


まさか本当に性的な悪戯をされてしまうのか、と混乱している御剣だったが、成歩堂に手を引かれてしまうと立ち上がらざるを得なかった。
誘われるまま、大きなソファーの前まで来る。


「…じゃあ、御剣」

「…はいっ!?」

「脱いで、横になって」


…叫ばなかったのが不思議なくらいだ。後に御剣はそう証言している。

不思議な力に動かされるように、御剣はソファーに腰掛けた。


「……脱げば、良いのか…?」


おそるおそる尋ねると、成歩堂は大きく頷いた。目眩を感じながらも、御剣は従順にスーツのジャケットをゆっくり脱ぎ捨てる。


「ヒラヒラもだよ」

「あ、ああ…」


何だ、何が始まってしまうのだ。
御剣の思考回路はもはや焼き切れて、ただ成歩堂の言葉に従った。
きし、と小さく軋むソファーに、ゆっくりと体を横たえる。
成歩堂を見上げると、彼は微笑んでマントとジャケットを脱ぐ。
そして…御剣に覆い被さった。

(…………ああ、そんな、そんな…成歩堂!ああ、神様、もうダメです。もう私はおかしくなってしまいます。
だって、成歩堂が…こんなに近くで…私を見つめて……私を、抱こうと…)



「御剣…」


成歩堂の声が御剣に降る。
その両手が体にするりと触れ、御剣はきつく瞳を閉じた。








「……この体勢じゃ肩揉みづらいからうつ伏せになってくれないかな」







「…は?」

「だからほら、うつ伏せ」


無論御剣がツッコミたいのはその部分ではないのだが、成歩堂は知る由もなく、御剣の体を反転させてまたのしかかった。

「お前疲れてるだろ?」


言いながら、その指先は御剣の肩をマッサージし始める。


「いつも素直に休まないから、悪戯にかこつけてマッサージしに来たんだけど」


御剣は脳内をクエスチョンマークで埋め尽くされているが、肩を揉まれるのが気持ち良くて小さく呻いた。


「ぁ…気持ち良い…」

「そうだろ?お前ゴリゴリだよ、ヤバい」


たまにはゆっくりしろよ、なんて優しい声色で言われたら、御剣はもうたまらなかった。


(成歩堂…キミはなんて優しいんだ…。こんなに誠実なキミが、性的な悪戯だなんて変な妄想をして本当に申し訳…ない……)


そんなことを考えているうちに、気持ち良さに眠りに落ちてしまった御剣だった。











「…お菓子くれないからだぞ」

仰向けにしたその寝顔に、成歩堂がそっとキスをしたのを…御剣は知らない。








☆おしまい☆


ハロウィンの夕方にネタが出てしまった為に一時間半の突貫で完成させた小説でございます、申し訳ありません。
なんの推敲もしないとこんなに文章って読みづらくなるんですね。
信楽さんとミクモちゃんはじめて書きました!なにげに腐女子にしてごめんよミクモちゃんwww
結局ナルミツラブラブwwwばかwwwもうwww(疲労で暴走)