さっきから、御剣はずっと黙ったままだ。
そして僕も無言。
だけど、不快ではない。
御剣はくったりとして、ソファに座ったぼくにもたれ掛かってぼーっとしている。
さっきまで2人してだいぶ飲んでいたから、同じくぼーっとしながら頬を擦り寄せてみる。
それを素直に受け入れて、気持ちよさげに瞳なんか閉じるものだから、そのままキスしてしまう。
いつもみたいなどこか不安げなそれではなく、くすぐったそうに小さく笑ったきみ。
きゅうっと抱き寄せる。
小さく猫みたいな声を洩らす御剣は、言葉を紡がない。
素面ならば、沈黙を嫌うように喋り続ける癖に。
ぼくはそれがあまり好きではないんだ。
苦手で下手くそな世間話を延々続けなきゃならないほど、ぼくの愛は信用されてないのかな、と思ってしまう。
つまらない人間だと思われたら、と不安なんだろう。
頭をよしよし、と撫でてやる。ふわふわした猫っ毛が心地良い。
酔うと本性が出るって言うけど、ならこれがきみの本性なんだ。
心の底では、ぼくがきみを嫌いになれる訳が無いって知ってるんだよね。
普通なら計算高いな、って思う所なんだろうけど、きみがそんなに器用じゃないことよく知ってる。
表面と深層は全くの別人で、そのことに本人すら気付いてないだけ。
なんだかもう無性に愛しくてもう一度キスしようとしたら、きみはいつの間にか腕を抜けていた。
かわりにぼくの膝の上に腰を乗せるような状態で寝転がっている。
上半身が半分、ソファからはみ出して下手すると落ちそう。
その反った体勢を何とも思わないのか、御剣は窓を眺めている。
落ちるぞ、って手を伸ばそうとした時。
「なるほどう」
きみが突然ぼくを呼んだ。
「なぁに」
返事をすると、相変わらず窓を見つめたままに言葉を喋り始めた。
「月が、きれいだ」
「え…?あーほんとだ」
カーテンが開いたままの窓から見える今宵の月はまんまるだった。
涼やかな夜風にレースカーテンが揺れる。
「満月…まるいな…」
「丸いねぇ」
完全に酔っ払いの会話を交わす。
これが全く飾らない御剣だとしたら、少し面白いな。
「…なるほどう。月見団子が…たべたい」
「……えー」
ずるずる、落ちていくきみのうでを掴んで引っ張り上げた。
「無茶言うな」
「…月見うどんでも可」
どういう思考回路してるんだ、と思ったけど、窓の外をもう一度見たら気持ちは理解できた。
大きいオレンジがかった月は、卵の黄身みたいだった。
「はいはい、お姫様」
ぼくだけが知ってるきみの本性。
気まぐれで、甘えん坊で、わがままで、支離滅裂で、ちょっと食いしんぼ。
END
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