「真宵ちゃん!聞いて!聞いてよ!聞いてなくても言うけどね!あのね今日御剣がね!」

「………(うるさい)」

蹴破る勢いで事務所のドアを開けた成歩堂は、ただいまも言わずにまくしたてる。

「…今日、御剣に「ウザい」って言われたんだ!!!」

「え…」

真宵は困惑しながら成歩堂を見る。
理由はといえば、彼が言葉とは裏腹に零れんばかりの笑顔を携えていたからで。

「…嬉しいの?」

「嬉しいさ!」

「…ドM…?」

「違うよ!良いかい?御剣の「ウザい」をぼくは初めて聞いたんだよ?」

「は…?」

「つまり、初めて「好き」って言われたりと同じなんだよ」

成歩堂は胸ポケットから小さなメモを取り出した。
付箋のたくさんついたそれを数枚捲り、彼はボールペンでなにやら書き込む。
真宵が覗き込むと、そこには…

「…何コレ?」

「う」から始まる言葉が羅列されていた。
うさぎ、うまい、美しい、鬱、うるさい、などなど。

「ぼくが御剣に貰った言葉」

ニコニコしながらそれを捲ってはニヤニヤしている。

「つまり、御剣の発した言葉ぜんぶ、メモしてるんだ。
こうしてメモって後で辞典にするの」

「…!」

完全に自失していた真宵はやっと我に返って叫ぶ。


「気持ち悪いよなるほどくん!!!!!」

「ええ?なんで!?普通やるでしょ!?」

「やらないよ普通!」

「だって御剣の言葉を一つだって忘れたくないよ!」

「…ヒトツ疑問なのだが」

「わぁぁぁあ!!!御剣!!!」

「みつるぎ検事!」

突然振って湧いた御剣。
そのノートを覗き込みながら訝しげに呟く。

「…初めての言葉ならばキミは喜ぶのか」

「勿論!」

「ならばこれは如何だろうか」

御剣はワンテンポ置いてから続けた。


「キミなど、大嫌いだ」

更に。

「もう、別れる」


呆然とする成歩堂に彼は笑いかけた。

「どうした?メモしないのか?」

「で…出来るわけないだろ!?な、しょ、正気か!?」

「…キミが、言葉が欲しいと言うから」

「だからって!」

「(しゅ、修羅場!?)」

真宵は動く事も出来ずに成り行きを見守る。

「単語などが欲しいならば、今この場で国語辞典を読み上げてやろう」

「…っ」

「お望みならば、英語辞典も付けてやるが」

「み、みつるぎ…ッ」

呼びかけた彼の大きな瞳からは涙が零れ落ちていた。
御剣はそれに少し驚いて言葉を止める。

「違うんだよ、ぼくが欲しいのは…そんなんじゃ」

「…ならば、何なのだ」

「……、」

成歩堂は真っ正面から御剣を強く抱きしめた。
真宵はこっそりと部屋の外に出る。

「成…」

「みつるぎの、言葉…。好きとかじゃなくて、うるさいでも、ウザいでも…ぼくに向けた気持ちの籠もった、一つ一つが…」

潤んではいるが真摯な黒い瞳が見据える。

「…大切なんだよ」

そして目の前の愛しい唇に柔らかなキスをした。
それを受けて小さく震え、御剣は瞼を臥せて抱きつき返した。

「…馬鹿者」

開いた切れ長の瞳は優しい色をして、笑っていた。

「当たり前だろう…大事なのは言葉などではない。気持ちだ」

それを受けて成歩堂も微笑みを浮かべ、頬を擦り寄せる。

「じゃあ…聞かせて。気持ちの籠もった、ホントの言葉」

「…キミが先に言いたまえ」

「ん?愛してるよ…御剣」

「…ッ」

「ほら」

「…あ、あ、愛して…るっ」

「うん…、御剣」




暫くして、ドアが開いた。
外にいた真宵は中に入ろうとするが、成歩堂に止められる。

「ごめん、真宵ちゃん、ちょっと一時間くらい開けてくれないかな」

「え、なんで?」

「…なんでって、そりゃ、ねぇ…ふふ」

「………〜〜〜あんたらが出て行けッッ!!!!」


真宵、憂鬱を通り過ぎてマジギレ。





end


いつもよりマトモ寄りな「真宵の憂鬱」でした(どこが?)