暴力的表現がありますのでご注意下さい。







するり、と私の首をクラバットが滑る。
彼の手に落ちた白く肌触りの良い布は、雑作なく床へと放られてしまった。
頓着せず私の白いシャツに手をかける彼は嬉しそうな表情を浮かべている。
ベストを左右に開いてから、ひとつ、ふたつと内側に隠されたドレスシャツのボタンを外していく指先は滑らかで、器用だ。これだから私はいつも翻弄されてしまうのだろう。
完全にはだけたシャツの隙間からはやたらに青白い私の肌と、青い首輪。そこから繋がって上半身に絡む、青いベルト。
全ての金具の終わりには、小さな南京錠が付いており私には外すことは出来ない。
ならば誰がその鍵を所有するか?答えは勿論、目の前で笑みを湛える彼だ。
このベルトの目的は私に肉体的苦痛を与えるためのものではないらしい。
どちらかといえば精神的に、いつでも彼を思い出すように、そして人前でクラバットひとつ緩めないように…私を戒めるのが目的のようだ。
そのようなことをせずとも、私は彼のものであるというのに。
彼に言わせればこういうのは気分が大事だそうなので、何も言わなかった。
いや、例え文句があったとして私にはそれを伝える権利は与えられていないのだが。
無骨で大きな手が、露わにされた私の身体に這う。自ら好んで私に付けたベルトに拒まれてしまうが、その隙間から蛇のように指先を滑り込ませて胸の突起を捉えた。

「ぁ…」

小さな声を洩らして目の前の彼を見つめる。
顔を背けたり、瞳を閉じることは彼の機嫌を損ねてしまう。
ぼくを見ていて、彼が私にそう言ったから、それを守る。
…彼の言うことは私にとって絶対、だ。
何故なら彼はそう、私のHighness。
もう半年になるか、このような関係になってから。
恋人同士になると同時に、私と彼は主従関係に陥ったのだ。
彼がもちかけた提案に何故乗ったのか…それは私にもわからない。
だが、その瞳に宿る不思議な光を見ていたら、逆らうことなど出来なかった。
そうすることが当然のように片膝を床に着き、彼の手を取って甲に口付けた。
それが契約の合図で、明確に証拠になるような文書などは残していないが…私の裸体を見れば、既にその事実は誰の目からも明らかだった。
その為の首輪やベルト。更にそれだけでは留まらない。私は彼に全てを管理されている。

自らベルトを外しスラックスを脱ぐと、その下からは異質な革の拘束具が現れた。
これこそが彼の施した、私を管理する為の拘束具。
私のサイズをきっちりと図った特注品の貞操帯だ。
これによって自慰行為・射精は勿論のこと、排泄すら彼の意志に従うしかなくなる。
ペニス側には排泄用のスリットが入っているがアナル側には穴すら開いておらず、そもそも拡張を兼ねたアナルプラグを押し込まれているのだから可能なわけがなかった。
彼がシリンダー錠を開き、貞操帯を取り払った。だが、わざわざ分けて作らせたペニスリングは私の睾丸の根元に引っかかり竿を拘束したままで、大して状況は変わらない。
つまり貞操帯は単に、プラグとリングの脱落防止及び、私が自ら外すことの防止を目的としているのだろう。
私が自ら外すなど有り得ないのだが…明らかに支配されていることを思い知らされては興奮するという働きも兼ねているようなので、特に言うことはない。

「レイジ」

彼が私を呼んだ。二人きりの時にはそう呼ばれている。
そして私が返す言葉といえば、彼の望んだ呼び名。

「如何されましたか、龍一様」

彼は呼ばせる前、「ご主人様の方がいい?でもメイド喫茶みたいだから…うん、龍一様だな。」などと言っていた。
ついでに、敬語もデフォルトだ。

「いいや、きみ、なんか言うことないの?」
「なにか…」

そこで漸く思い出した。絶対に彼の許可をとっておかなくてはならないことがあった、と。

「…お願いがあります」
「うん、なぁに?」

彼の指が私の乳首と恥骨をいやらしく撫で上げる。
ぞくぞくと這い上がる快感に瞳を細めながら、青いジャケットを脱いだ彼を見つめた。

「明後日、局で健康診断があるので、貞操帯の非装着を認めて頂きたいのです」
「ん、いいよ」

わざわざその話題を振ってきたということは、一応許可するつもりがあったのだろう。即答だった。

「その代わり、ぼくの言うことを何でも聞いてくれる?」
「…?何を仰って…んっ、ぁ…私は…龍一様の言いつけとあらば」
「…そうだね。わざわざ言うことでも無かった」
「ぁ…ふぁっ!」

笑みを浮かべた彼に乳首を抓られ、甲高い声が上がる。
反対の胸も舌を這わせられ、湧き上がる熱に腰が震えてしまう。
背後のベッドに腰掛けたいが、彼は私を立たせたまま責めるのが好みらしく、いつもその場にへたり込むまで愛撫を施される。
唇が胸先を離れ、代わりにもう片方の手が添えられた。両の胸に指先で与えられる刺激は優しすぎて、焦らされているのだと感じる。
唇は鎖骨に降りて、骨の隆起で張り詰めた薄い皮膚を甘噛みしてくる。

「ひ…あぅ…」

それにも驚くほど感じる私の身体は、彼に開発され調教された結果だ。
全身どこにどういう触れ方をされても、感じる。
しかし気持ち良くなればなるほど、膨れていくペニスにリングが食い込む。
最大時よりも小さい直径をしたそれは、私に苦痛と焦燥、そして快楽を与えてくれる。
いや、苦痛と焦燥は私にしてみれば快楽なのだから、このリングは私を高める道具でしかないのだ。

「ぁん、あ…痛い、です」
「好きだろ?」

自身には直接触れられていないし、他の箇所への刺激も極々緩いものだ。
こんな風になる前の私ならば、くすぐったいと笑ったかもしれない。その程度の刺激。
それを掬い拾い上げる淫らな肉体と、増長させるmasochistの精神。それらは間違いなく彼が植え付けた。
目の前で黒い瞳を細めて笑う、優しげな男が。

「龍…一、様」

首にぎゅっと抱き付いてキスを強請る。
優しくも支配者として振る舞う彼だが、その根底は揺るがない私への愛なのだろう。
私が彼を求めることに関しては、咎められはしなかった。
キスを強請れば、優しく時に激しいキスをくれる。
今日も同じで、強く唇を塞がれた。

「ん、ふ…」

舌を絡められ粘膜を擦られると、栓をされたアナルがずくりと疼く。
受け入れることに慣れた身体は、前戯に対する条件反射の如く開こうとする。
プラグを締め付けてそのおかしな形を感じても物足りずに腰を振ってしまう。
その様子に気付いたのか彼はキスを解き口端を持ち上げて、私の耳元に唇を寄せて囁いた。

「ねぇ、今夜は目隠ししようか?」
「……お望みのままに」

熱い吐息を洩らしてしまった。視覚情報から得られる快楽は数え切れないが、敢えてそれを遮断されるのも堪らない。そう知っているからだ。
彼は一度私をベッドに座らせてから離れ、引き出しを漁る。
座らせてくれるなど珍しい、と思いながら彼を待った。

「横になって」

命令通りにベッドに横たわる。
下からのアングルの彼は大きく見えて、心臓が高鳴る。
それも今から見えなくなってしまうのだが。
彼は手にした厚い黒革のアイマスクで私の瞳を覆った。それから、アイマスクから繋がった鎖の先にある腕輪で、私の両手を捕まえた。
鎖が短く、手首を顔の近くにやるしかなくなる。
それほどしっかりと固定されているわけではないが、強姦でもしようというわけではない。
私に外す意志がなければ、両腕をコンクリートで固めようと細い糸で結ぼうと同じことだ。
つまり私には逃げる意志がない。

真っ暗になった視界の中、彼がベッドに何かを載せている音に気が付く。何だろうか…
だが問うことは出来なかった。彼が突然私の内部から、アナルプラグを引き抜いたから。

「ひああぅ…!」

ギザギザとした引っかかりが一気に内部を通り過ぎ、痛みで思わず高い声が洩れた。

「あ、あぁ…ひ、う…」

戒めさえなければ達していただろう。根元にリングがぎゅうぎゅうと食い込んで、私を追い立てる。
彼の手が私の両膝に触れ、お構いなしで左右に広げられた。
私に見えはしないが、恐らく彼は私の秘部を観察しているのだろう。それを想像しただけで、体が震えた。
拡張器を失った私のアナルは口を開いて、ぱくぱくと収縮を繰り返す。
彼曰く、赤くて綺麗で、いやらしい私の内部。普通ならば器具を使わなければ見られない場所がそんな風に開いてしまっている。括約筋はすぐに元に戻ると知っているはずなのに、彼に変えられた身体を実感する度に、もう戻れないという薄暗い悦びに満たされていく。

「見ないで…下さ…っ」
「え…見てないよ。自意識過剰なんじゃない?」
「そんな…ひっ」

笑い声が聞こえた直後、急に内壁を撫でられて腰が浮いた。
ずっと押し広げられていた壁は敏感になっており、感じる。
どこから来るかわからない指先は、軽く触れるだけで私を高めていく。全く予想もしていない場所や身体のそこかしこを撫で回されて、腰がガクガク震えてしまう。

「ぁん…あ、もっと、強く…!ひどくしてくだ…あぁあっ」

強請った途端に前立腺を押さえられ、鋭い快感が駆け抜ける。達することは出来ないが、私自身の先端からは何かが絶え間なく溢れ出していた。
頭が徐々に白くなっていく。気持ち良い。

「ああ、そうだ…何でも言うことを聞くんだったね」

突然思い出したかのような声が頭上から降る、どうやら笑っているらしい声色。
それはあからさまに何か良くないことを考えている声だが、私は彼になら何をされても構わないのだ。野外でセックスがしたいと言われれば応えよう。どんな責め苦も受け入れよう。
…彼に触れられることが私の至上の悦びだから。

「ああ、それじゃあね…」

乳首と前立腺への刺激で背をそらした私の耳元へ、低い声が吹き込まれた。



「ぼくの前で輪姦されてみてよ」



…一瞬何を言われたのか分からなかった。
快楽とは全く関係のなく頭が真っ白になる。いや、真っ暗か。
輪姦…?それはつまり、私に、彼以外の男に…抱かれろと?

「こんなやらしい身体、ぼくだけじゃ勿体無いだろう?それに他の男を知ればもっと、成長するかもしれないし」

何を、何を言っている?
何故嬉しそうにそんなことが言えるのだ。
私が他人に抱かれてもいいと、そういうことなのか。
見も知らぬ汚らしい男の手で身体を弄られ、内側を貫かれる己を想像して吐き気に苛まれる。見えないはずの視界すらぐらぐらと揺れる。

「レイジは男性器狂いの淫乱だからね、きっと愉しいよ」

彼の非道い言葉も曖昧にしか意味が理解出来ない、脳がきちんと働いてくれない。
男性器…狂い?誰のものでもいいと?
私はそんな風に思われていた…のか。

「勿論、可愛いお前をちゃんと撮影してあげるからね。いい声で鳴くんだよ?」

私は彼の従順な僕だ。言うことは何でも聞くと、誓った。
逆らってはいけない…
「…ゃ…」
ダメだ。ダメだ。駄目だ、だめ、



「いやあああぁぁぁああああっ!!!」



気が付くともう叫んでしまっていた。自らの手で耳をふさいで。
吸水しない革の内側が涙でぐしゃぐしゃに濡れて、耳の間から項まで伝った。
私は壊れてしまったに違いない。耳を塞いだまま左右に何度も首を振って、嫌だと叫んでいた。

「嫌、いや、そんなの…いや…!許して、許してください…」

泣きながら何度も繰り返す私の頬を、衝撃が走る。彼にぶたれたと気付いたのは少ししてからだった。

「んん…?レイジ…ぼくの言うことが聞けないって言うのかい?」

声を出せなくなる。
彼が私の首を、締めたから。
内部を刺激していた指も抜かれ、大きな両手が首輪さえ包み込んで私の頸を掴んでいる。見えなくても解る。

「…く…は、――〜〜ァ」

何度かされて知っていた、首を締められても呼吸が苦しいなどとは感じないのだ。
ただただ酸素が途絶え、目の前が真っ白になっていく。瞳を開いてすらいない今は、暗闇に白く光る星を掃いたような景色が見えた。
解っている、これは生命を脅かす行為でしかないと。だが感じるのは恐怖と背中合わせの快楽。
彼に生殺与奪を握られるのは恐ろしいほど心地良くて、どこかに飛んで行ってしまいそうだ、このまま。
何も考えられない。何も、考えたくない。

「…言うことを聞けるね?」

甘い囁きが鼓膜を震わせる。
…何の話だっただろうか。私が彼の言うことを聞かない筈が、無い、のに。

「…Yes,…Your High…ness」

出ない声を、ほぼ囁きのように途切れ途切れに絞り出した。
途端に手を離され、突然空気が肺を満たし激しく咳き込む。
「…良い子だ」
悶える私に満足げな声が降ってくる。それに心底安心した。
今し方、途方もない絶望を自ら許可してしまったばかりだというのに。

彼が私に触れてこない。変わりに何かをしているようだった。漸く呼吸が落ち着きはじめた私はその音に耳を澄ます。
…聞こえたのはライターの着火音か。ならば…それは恐らく蝋燭。

「龍一…様…?」

だが何故いま、それを?いつもは仕置きにのみ使われる筈のもの、嫌がった私を律するため、なのだろうか。
プレイ用の蝋燭は通常のものより太いため温度が低く、痕も残らない。慣れていれば耐えられる程度の熱さと痛み。
…そのはずだった。

「…!?うあああぁ!!」

急に脇腹に落ちてきた雫は、感じたことがないほどに熱かった。2、3滴立て続けに薄い皮膚に降り注ぐと、私はまたしても叫んだ。

「熱、熱い!龍一様、龍一様あぁッ!」

皮膚が溶けている気がする。穴が開きそうだ。
熱い、痛い、気が狂いそうになりながら腰を捩ると、信じられないほどの痛みが私を襲った。

「あ゛あ゛ああ!」

潰れた無様な悲鳴を上げながら、私は気付いた。
蝋燭自体はいつもと同じなのだ、問題はその距離。いつもは高い位置から垂らされる蝋は空気で冷える。
だが今、彼は私の身体に触れるか触れないか程の近さから蝋を落としていた。
故に身を捩った私は、自分から滴り落ちる前の多量の蝋へと肌を押し付けてしまう事になったのだ。

「あーあ、何してるんだよ馬鹿。これ多分、一生消えないよ?」
「痛、痛い…ああ、あああッ」
「ま、これでもう人前でなんて脱げないよね」
「何故…さっきは、許可…して…」

そうだ、こんな身体では健康診断になど出られない。少しだけ残ったマトモな頭が彼にそう問い掛ける。
それで得られた答えはある意味、最も容易に想像し得るものであった。

「お前の身体、誰にも見せるわけないだろ?勿論、他人に抱かせる訳も…ね」

…そうだった。彼の、私に対する執念とはこういうものだ。
狂気にも近いほどの純粋さでもって私を壊す。



…ああ、この痛みは、人より情熱的な彼が私に刻む、



…もう一生消えない、キスマークか。






END


読んでくださりありがとうございます!
果たしてBDSMってこうで合っているんでしょうか。
互いの呼び方に散々悩まされました。
あと御剣が敬語で成歩堂への呼び方が違って、ちょっと誰だかわかりづらかったので御剣視点にしました。
ネタ出しは某さんとああでもないこうでもない言いながら。
だいぶ話し合いと違う展開になってすみませんでした…!

主従ナルミツ萌えますもう…
しかしあんまりエロくないなこの話…何でだ?