マイルズエッジワースはかなり混乱していた。
何故なら彼は見てしまったのだ。今自分の腕を強過ぎる力で引いている恋人、彼がもう一人居たのを。
強引に路地裏に引きずり込まれる途中、その様子を呆然と見つめるその姿は間違いなく恋人だったのだ。
しかし、前にいる男も後ろ姿ではあるが、どう見ても見慣れた姿。
混乱を極める彼は思考をそればかりに埋められて、無抵抗に着いて行ってしまっていた。
付いた先は、チェーン店のビジネスホテル。
自動ドアが開き、それを悟ったエッジワースだが既に遅かった。
ホテルのフロントマンに出迎えられ、今此処で必死に逃げることは恥のように思え、手が離されているにも関わらず逃げ出すことも出来ない。
彼がフロントマンと何かを話している間(人数が増える、ということを伝えたようだった)、エッジワースはようやく落ち着きを取り戻し始めた。
そもそも何故自分があのような場所を走っていたのかも思い出し、怒りがこみ上げてきた。
外出の為に預けておいたカードキーを受け取った青い男を、人気の無い場所まで行ってから問い詰めたい。
その思いで、おとなしくエレベーターに乗り、その部屋まで着いて行った。
男が慣れた手つきでカードキーを差して扉を開き、入れ、と顎で指示した。
従うのは癪だったが入らなければならない。
毛の短い絨毯を踏みつけ、部屋に入った。
ガシャン、とオートロックの鍵が閉まると同時に、エッジワースは口を開いた。
「ライト貴様、一体何のつもりなのだ?」
彼…ライトは反応を示さない。ベッドに座ってエッジワースを冷めた目で見つめるだけだった。
それに苛立ち、声を荒げる。
「このような場所に連れてきて…、自分がしでかした事を解っているのか?」
彼が言っているのは、先ほどまで及んでいた行為の最中ライトが別の人間の名前を呼んだことについてである。
それも、エッジワースにとって聞き慣れた、自分とそっくりな男の名前だ。
恋人が何らかのきっかけでその人と知り合い、心を惹かれてしまったのだと思っている。
それは誤解であり、そもそもその人間はライトではなかったのだが、そんなことを知る由もないエッジワースは鋭い眼光でライトを睨み付けた。
それも意に介さないといった表情で笑う男。
「自分がしたことを解ってるか…?その言葉、そのまま返すよ。」
二人の視線がかち合う。
ライトの黒曜石のような瞳が暗く光り、エッジワースは思わず身を竦める。
ベッドから立ち上がって距離を詰めると、気圧された彼は後退りする。
しかし突然すごい勢いで腕を掴まれ、逃げる間も声を上げる間すらなく、ベッドに転がされた。
「なッ…何をする!!」
仰向けの状態から身を起こそうとするが、腰にのし掛かられ腕を押さえられて身動きが取れなくなる。
仕方なく首だけをそちらに向けて睨むエッジワースに、上に居る男は冷たい瞳はそのままに口元だけを歪めた。
「…そんなはしたない格好してさ…誰に抱かれたの?」
「…っ!?」
ベッドに押し付けられて今は確認することが出来ないが、エッジワースはクラバットを付けておらず、ジャケットのボタンを止めてはいるが中のYシャツは完全にはだけている。
それに思い至ったせいもあるが、どちらかといえばライトの言葉の後半に驚いた表情をした。
確かに先ほどまで彼に愛撫をされていた筈だ。また混乱してきた頭は、二人目のことなど忘れてしまっていた。
「誰かに犯された?知らない奴に襲われた?それとも…、ぼく…かな?」
しゅるっ、とネクタイを引き抜きながら、ライトの笑みは濃くなる。その表情と言葉は、エッジワースの言葉を奪うのに十分だった。
「エッジワースったら、ぼくの顔だけが好きなのかな?」
それは明らかに自分の姿をした第二の存在を知っている為に出た言葉。
しかし、別人であるという考えに至らないエッジワースは頭に疑問符を浮かべながら身を捩る。
「…馬鹿な、私を抱いたかどうかくらい…自分で解らないのか?」
なんとか絞り出した声を聞き、ライトは手に持ったピンクに近いような赤色のネクタイで、押さえつけていた両腕を縛り上げた。
後ろ手に固定され、もはや抵抗の術すらないエッジワース。
体を無理矢理反転させられ、無遠慮な手にベルトを外されてズボンを下ろされ、下半身を暴かれる。
「なッ…止めたまえ!」
「ぼくとこういうことしてたんでしょ?なら、ぼくだってイイよね」
普通に聞けば意味の通じない言葉、なんと返せばいいのか解らないままに自身を握り込まれた。
いきなり乱暴に擦り上げられ、声が洩れそうになるのを唇を噛んで耐えた。抗議の声を上げることも出来ず、太ももに乗り上げられ肩を押さえられて抵抗も出来ずに、されるがままになってしまう。
「ん…ふぅ、う…」
怒りと混乱の中でも、ライトの技巧と慣らされた体のせいで直ぐに高ぶってしまう。
強弱を付けて扱かれ、耐えるような吐息が洩れる。
押さえつけていなくても抵抗の意思は無くなったと判断したのか、ライトの腕が肩から外され、赤いジャケットに指をかけた。
普段は止められることのないボタンを外すと、白い素肌が露わになった。ベストも、シャツのボタンすら止められていない。
痕などは残されていないものの、先ほどまで行われていたであろう行為を示していて、ライトは表情を無くす。怒りでも悲しみでもないそれを目の当たりにしてエッジワースは怯え、身を竦ませた。
「…っ、は、離せ…」
不本意ながら声は弱く震えてしまっていて、視線を合わせることも出来ずに、体を捩る。
後ろに縛られた腕が自重で潰され、痺れてきている。
エッジワース自身を握ったまま、ライトは行動を起こさず、その瞳でただじっと彼を見つめていた。何かを考えているのかいないのか、その視線はピントを合わせてはいない。
「…最悪だ…」
やがて、注意していないと聞き取れない程の大きさで呟いた。
直後、突然激情が流れ込んだかのように瞳孔が開かれ、ライトは叫んだ。
「最悪だ…ッ!!」
恋人が自分と他人を見抜けなかったことに対する怒りか、彼が他人に抱かれてしまった(本当は未遂であるのだが)悲しみなのか。
衝動を抑えられないままに、体勢を変え長い脚を掴んで秘部を露わにさせ、多量に分泌されたアドレナリンによって立ち上がった凶器をそこに押し付ける。
「ひっ…止め、てくれ!」
青ざめたエッジワースの静止も聞かず、無理矢理に、押し開いた。
「うッ、ぐぅう…!!」
苦しげな声が洩れる。反射的に奥歯を噛み締めたせいで、叫び声の代わりにギリリと音が鳴る。
「痛い…ライト、痛…ぁあ゛!」
ライトは言葉も反応も無いままに、乱暴に内部を突き上げ始めた。
腰を掴んで行われるそれは、性的な行為というよりは攻撃という言葉が相応しく思える。
強く締め上げられ流石に眉を寄せるが動きを止めない彼は、いっそ目の前の男を壊してしまいたい衝動に駆られる。
しかしながら、それは負の感情とは真逆の所から生まれているのだ。愛しくて仕方がなくて守りたくて優しくしたいのに。
「ライト…ライ…ト…う゛ぁあ゛…」
赤くなった目尻に、透明な珠が浮かぶ。
すぅ、と白い肌に筋を残して消え失せる。幾重にも重なる光る帯を茫然と見つめながら、ライトは彼を抱き締めた。
「…ごめんね、エッジワース。」
上半身を抱き起こされ、同時に後ろで縛った手首を解放される。
突然のことに頭が着いて行かずただ瞬きをしながら目の前を見つめるエッジワースに、表情を取り戻したライトは笑いかける。酷く悲しそうに。
「ごめんね、こんなぼくより、彼の方が良いでしょう?優しくて、きっときみを大事にしてくれるんだ…」
「な…何を言っているのだ…?」
「ぼくと同じ顔、同じ声、同じ体…、きっときみは、成歩堂を好きになるよ」
「なる…ほどう?」
ぽろりぽろりと零れ落ちる言葉の意味を少しずつ理解しはじめ、エッジワースの瞳が瞬きをしなくなる。涙で潤んでいた筈の銀はその色を濃くしていく。
エッジワースの頭の中で、自分の見た景色とライトの言葉が重なり合った。
「……ッライト!!」
弾かれたように叫んだ声が、狭い室内に響いた。
その表情からは驚きや焦りがありありと見て取れた。彼は全てに気が付いたのだ。
だが、その大声にも微動だにせずに地の底のような暗い瞳で見つめるライト。
もう取り返しがつかないかもしれない、エッジワースにそう感じさせるには十分だった。
「ライ…ト…すまない…すまない」
謝罪ばかりがその唇を震わせる。小さく弱々しくも確かに空気を振動させるが、まるで壁にでも阻まれているかのように、目の前の男には届かなかった。
「もう良いんだ、エッジワース…もう…別れよう」
譫言のように繰り返す。
ライトは少々情緒不安定なところがあるようだった。先ほどまでの激しさを完全に失って、うなだれる。
本気で身を引こうとすら思っているようだった。
ついにはその瞳から涙が溢れ出して、抱き締めたエッジワースの肩を濡らしていく。彼がしゃくりあげるのを振動として感じながら、エッジワースは瞼を臥せた。
何故かその表情に今までの焦燥は感じられない。
「…そうだな、別れるか」
きっぱりと言い捨てた彼は、慰めることに疲れたのだろうか。
今までのやり取りで愛想を尽かしたのだろうか。
それを受けて、肩口に埋められた黒髪は動かない。
ただしゃくりあげる声だけが聞こえる。
「私はきみなど要らない。代わりが出来たのだからな」
いつの間にか立場は逆転していた。
繋がったままの場所が、場に似つかわしくなかったが、エッジワースは彼の上から降りようとはしない。
体を強く抱き締められている為だ。
「さっさと退きたまえ。私は明日も早いのだ」
なおもエッジワースからの責め苦は続く。冷たい言葉。
「きみのような役にも立たない癖に独占欲だけは強いようなストーカーは迷惑なのだ。」
淡々と続けるエッジワースは、無表情。声にすら色は付いておらず、全くの無色透明な氷のように冷涼だった。
もはや泣くことしか出来なくなっている男は、肩を震わせて抱き締める力を強めていく。
いや、抱き締めるというよりは縋り付くといった雰囲気だ。
そして、やっと嗚咽以外の言葉を発する。
「いやだ…。やだ…エッジワー、ス…別れたくない…よぉ…」
ぼろぼろ流れ落ちる涙と言葉。痛切に掠れた声色。
その答えを聞いてエッジワースは口角を吊り上げて瞳を歪ませ、酷く尊大な態度で笑った。
「はっ…そうだろう。出来もしないならば言うな」
哀れに泣き続けるライトの腰を掴み、萎え始めている禊に向かって腰を落とす。
「あぁっ…」
ライトが抱き締めていた腕を緩め、体を反らすようにしてベッドに両腕を付く。
黒い瞳を涙で陽炎のように歪ませながら目の前の彼を見つめている。
そんな男に見せつけるようにしながら、無理矢理に笑ったまま腰を揺らすエッジワース。
「くあぁ、エッジ…ワース…」
「はんっ…口よりも、体の方が正直…ではないか!」
再び硬度を増していくそれを揶揄するように笑いながら、だんだんと動きを早くしていく。
ライトはまるで犯されているかのような表情で揺れる銀の髪を見つめ続ける。
自分の感じる場所を狙って腰を落としているのだろう、エッジワースも甘い喘ぎを上げて体をくねらせている。
「あ、あ、ああぁっ…ライト…どうせ、キミはッ…私から、逃れられないの、だよ!」
まるで呪詛のような睦言を繰り返し、ひたすらに腰を振る。
ビジネスホテルの埋め込み式ベッドはさほど音を立てなかった。
そのかわりに、ぐちゅぐちゅと水音がいやらしく耳を犯す。
「キミは…私を、…離すことなど、出来ない!何故か、解るな…?」
責め立てるだけだった言葉が不意に疑問系になり、絶頂を一直線に目指していた体の動きも弱まる。
ライトはエッジワースの言動を理解したのか、目の前の白い肢体を強く強く抱き締めた。
「うん…きみを、愛してるからだよ。エッジワース…」
その答えにエッジワースの瞳に温度が戻る。それを確認してライトは愛しげに微笑み、下から腰を掴んで突き上げはじめた。
「はぁ、あぁあん…ライト…」
たった一言ですっかり溶けきって、再び腰を振り始める。
自重と下からの動きが加わり、より深くまで穿たれて背筋は反りビクビクと体を跳ねさせる。
「いぃ…気持ちイイ…あん、ひぁぁんっ」
2人の間で擦れるエッジワース自身は、熱く硬く立ち上がりとろとろと雫をこぼしている。
「やらしい…エッジワース…。もう、イくよ…っ」
「私も、イく、いく…っ!」
ぎゅっと抱き合い二人して切羽詰まった声を上げ、ほぼ同時に絶頂に上り詰める。
熱い精液が勢い良く注がれ、エッジワースはゾクゾクと背筋を這うような感覚に、互いの腹の上に射精した。
力が抜けてしまった身を寄せ合い、はぁはぁと荒い息を吐ながら余韻に浸る。
脱力感が心地よかった。
「ライト…」
声を出すのもダルそうに、ほぼ吐息くらいの大きさで呼び掛ける。
ライトはそちらに目線を向けて、首を傾げてみせる。
「私は、その…「なるほどう」に、抱かれてはいない…ぞ」
「…へ?」
「私には…キミだけなのだよ」
嘘は言っていない…心の中でそう呟きながらエッジワースはライトを見つめる。
途端に、ライトの顔がへにゃりと歪む。
「よ…よかったぁぁあ!なんだ、そうかぁ…!」
余計に脱力してもたれかかられ、エッジワースは後ろに押し倒されてしまった。
「重い!退け!」
「もっかいしようよ、エッジワース!」
にこにこ笑うライトに流されてしまいそうになったが、これだけは聞いておかなければならないだろう、とエッジワースは制止をかける。
「待て、ライト。で…誰なのだ?「なるほどう」とは…」
「あ、御剣検事の恋人だよ!」
「な…」
何だと!!!!?エッジワースは心の中で叫んだ。
勘違いとはいえ、友人の恋人を誘惑した挙げ句に性的な行為に及んでしまった。
謝らねば、怜侍に謝罪をせねば!今すぐ、今すぐ!
目を見開いたまま固まってしまったエッジワースだが、機嫌良さげなライトはそんなことにも気付かず腰を揺すり始める。
「ぅ、あ、待て!急に用事を思い出した!」
「何言ってんの、朝まで離さないよ、ハニー」
「ひぁあ、止めろ、本当に止めてくれぇえ!」
エッジワースの叫びが狭い室内にこだました…。
翌日、御剣の執務室に現れたエッジワースはよろよろでぼろぼろだったという。
それから成歩堂とエッジワースが騒動を繰り広げ、御剣が巻き添えを食うことになるのだが、それはまた別の話。
ヘタレ萌とか思った結果がこれだよ!
でもようやくゲッペルドンガーさんが出来上がりました。良かった。
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