「ねぇ御剣、明日世界が滅亡するとしたら何する?」



そう問い掛けた男の視線の先には、夕陽が鮮やかに染める銀糸。

その髪をさらりと揺らして、御剣と呼ばれた彼は書類から顔を上げてそちらを見た。



「…また随分と、チープな質問だな」



下らない、仕事の邪魔をするなと言外に含んだ声色にも負けず、男は笑顔を返す。



「内容の無い話もたまには必要だろ。日常会話もしないと脳が錆びちゃうぞ」

「脳は普段から働かせているがな…」

「そんなことはどうでも良いよ。で、何するの?」



自分から言っておいてどうでもいいとは何事かと言いたげにしている御剣。

しかし一応返答する気はあるのかピカピカに磨き上げられた机にペンを置いて、眉を更に寄せた。

そしてソファに体を埋める相手を僅かに首を傾げて見つめる。



「…そもそも、世界滅亡とは何を指すのだ?それによっては答えも変わってくる」



逆に質問を返されるとは予想外だったのか、問い掛けた男はもともと丸い目を更に丸くした。

そして斜め上に視線を移してビロードのカーテンを眺めながら言葉を探しているようだった。



「………地球が爆発するとかかな?」

「……成歩堂らしいな」



頭を捻ってやっと出て来たであろうそれをまたもやチープだとでも言いたいのか、呆れたような表情を浮かべられ、成歩堂は少し機嫌を損ねたようだった。

それに気付いてか、御剣は表情を僅かに緩めた。



「それに限って言えば、何と言うことはない。最期まで戦うまでだ」

「ああ、御剣らしいね。…ところで、世界が滅亡するって他のケースがあるの?」



御剣の返答は予測できていたのか、全くさらりと相槌を打ち、言葉尻を捉える。

御剣は小さく溜息にも似た息を吐き、唇を開いた。



「概念的な話はあまり好きではない。だが、物理的になのか精神的になのかは気になるところだった」

「…精神的に?」

「そうだ。【世界】とは此の目に映る全てか、己自身なのか…」

「地球が壊れるか、自分が死ぬかってこと?」

「…地球が壊れるというのはどちらかといえば、自分が死ぬという事のような気がするな」



眉間に刻まれていた皺を少し深くして、彼は考え込んでいるようだ。
告げるべき言葉を選ぶかのように指先が机を叩く。



「物理的な滅亡とはおそらく、神が与えるものだ」

「…神って…」



すごい話になってきたな、と思いつつ成歩堂は耳を傾ける。



「もし地球も宇宙も…その先に有るかもしれない何かも、全てが一瞬で無に帰すなら、それが世界の終わりだろう。…その方が良いのかもしれないな」

「お前の話はよくわからないよ…。良いって、自分だけが死ぬよりは良いってことか?」

「…そうだな。」



問いかけると、饒舌だった彼は急に話すのを止めた。

豪華な椅子に身を埋め、顔の半分を覆うように額を押さえている。



「残される者があるなら、その人間までも光を失うだろう。それならば、いっそ全てが消えてしまう方が良い」



今度は成歩堂が溜め息を吐く番だった。

概念は嫌いだ等と嘯いても彼は過ぎる程精神論者だ。

成る程、彼にとっての世界は既に終わっていると言えよう。それは精神的に。



「ねぇ、一度終わった世界はどうなるのかな

「…終わり続けるのだろう」

「もう始まらない?言うだろ、開けない夜は無いって」

「朝を…光を始まりと定義するならな」



そう呟いて彼は、まるでこれから沈みゆく世界のような自らの色彩を憂いた。

対した始まりを唄うような色の男は笑って。

第三の可能性を提示した彼は、失うことを誰よりも怖れている…

世界は、大切なものを喪うことによっても、簡単に崩れるのだ。



「繰り返すよ。光は闇へ、闇は…光になる」

「そしてまた闇に墜ちるのだろう?」

「うん…そうだね。つまりそれは、無限だ」



だから何だ、といつの間にか苛立った表情を浮かべた御剣に、ソファから腰を上げ傍に寄った青色は瞳に赤色を映して。



「きみの世界は終わり続けてなんか、ない…」



何処までも続く。何度でも、始まりを与えてあげよう。

始まりを定義したその色、きみの行く路に青色が在る限り。

成歩堂は、彼の額に優しく唇を落とした。














サイト名を在ル路にするか、或ル路にするか悩んだという話。(違う)

神とか言ってますが御剣は無神論者な気がする。

ラブラブなのです。
でも結局成歩堂くんの世界も、御剣から始まる気がしますが。