白く波立つシーツの上で、滑らかな肌を晒して眠るぼくの恋人。
穏やかな寝息を立てる度に上下するその胸には先程残した赤い痕が散らばっている。
切れ長の瞳は髪と同じグレーの睫で隠されて、見るものを威嚇するいつもの気迫は感じない。
滑らかな白い肌を撫でて、軽く口付けを落とす。
全く目を覚ます様子はなくて、ぼくは苦笑してしまう。
いつも、他人を警戒し過ぎている彼。
こんなに無防備な姿を晒すのは、ぼくだけの筈。信頼してくれているんだろうな。
…けれど、その君にとって信頼に足る人物が本当は一番危険なんだと、君は知らない。
ぼくは、君にトラウマが有るって知った時、愕然としたんだ。
だって地震が起きたってエレベーターに乗ったって、それだけで君は思い出すんだ。僕じゃない大切な人を。
そんなのは、許せなかった。
だからいつも考えている。君にトラウマを植え付ける方法を。
見るだけ、触れるだけでその度に強烈に僕を思い出す何か。
そのためにぼくは、それは悲惨な殺され方をしたって構わないんだ。
出来るだけ、頻度が高い方が良い。
地震なんていつ来るか解ったもんじゃない物じゃなくて、エレベーターのような日常接する回数の多いものが好ましい。
そうなってくると、結構範囲は狭まってくる。車や電話、パソコンにテレビ…色々ある。
ただ問題は…どうやったらインパクトがあるか、だ。
今あるトラウマは、御剣自身が殺してしまったと思いこんでいたために罪悪感で強く擦り込まれたもの。
それを超える死に方を考えなくてはならなかった。
しかもそれを目撃した彼が精神的に大ダメージを受けるか、若しくは当事者になって貰わなくてはならない。
絞殺、刺殺、毒殺…色々考えてみたけど銃殺を越える物は思い付かない。
いつもこうだ、いつも思い浮かばなくて決行に至らない。
堂々巡りを繰り返しては、死ねずにいた。
どうしたら君は僕のことだけを考えてくれるのかな?
その白い首筋に指を這わせて、手のひらで首筋を包み込む。
軽く力を込めると、君が少し苦しそうに唇を開いた。どくんどくんと動脈を血が流れているのが解る。
ぼくを思って、苦しんで、苦しんで、夢に見て、叫んで、狂いそうな程にぼくを思って。
キミの苦しそうな表情、すごく好きなんだ。
眠ったままの御剣の瞳から涙が零れ落ちた。
そこで手を離してやると、苦しげな吐息を吐く。
ああ、可愛い、御剣。
ぼくが君を殺すのも楽しそうだけどね、少し違うんだ。
君にはどこまでも苦しんで生きていて欲しい。
ぼくは、高揚した気持ちを抑え、君の隣に横になって瞼を臥せた。
「ああっ!!!」
御剣の大声で目が覚めた。何だ、朝から…
「どうしたの…」
寝ぼけた身体を引きずって、声の聞こえてきた方へ向かう。
御剣は洗面所にいた。ぼくを見るなり、すごい目で睨んできた。
「貴様ッ…見える場所にはつけるなとあれほど…!」
「あぁ、それね…」
御剣の首筋、そこよりも更に上、顎の下にまで付いている。
御剣は顔を赤く染めてぶるぶる震えている。
「いいじゃないヒラヒラで隠せばさぁ」
「隠れるかこんな所まで!」
その痕を撫でながら鏡を怒ったまま困ったような(器用だな)表情で見つめている。
「困るのだ…」
周りに気付かれるのがそんなに嫌なのか?誰も相手がぼくだなんて思わないと思うけどなぁ…
「なんでそんなに嫌なのさ…」
「う…それは…」
御剣は口を噤む。目を逸らして更に顔を染める。
耳までも真っ赤で、傍に寄ってそこに軽く噛みつくと、御剣はビクッと震える。
そのまま抱き締めると観念したようで瞼を臥せる。
「………鏡を見る度に君を思い出してしまうではないか…!」
「…!」
やばい、ときめいた。なんだ今の。
鏡を見る度に僕のことを考える…なんて。相当な頻度じゃないか。
御剣がぼくの腕の中でたじろいで、こちらを向いて。
ぼくに軽くキスをした。
「…み…っ」
「…困るのだよ」
寄せられた眉が色っぽい。声色は少し甘くて。
僕はやっと自覚した。
…ああ、なんだ。
まどろっこしい事考えなくても、こんな事で十分。
君はぼくだけを見つめている。
君はぼくだけを思っている。
君の苦しげな表情は大好きだけど、それ以上に笑顔が愛しいんだと気付いた。
きみに狂いそうになって…でも完全に壊れる寸前に光の元へ引きずり出される。
それを繰り返してぼくはきみに溺れていく。紅色の迷宮に足を踏み入れたぼくは、もう逃れられない。
黒ナル→白ナル?→まさかの計算尽く黒ミツ
っていう流れにしようか本気で悩みましたが。何だか糖分が欲しくなって止めました。
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