あくまで絶対にナルミツですがミツナル要素がありますのでお気を付けて。



矢張政志…私の数少ない友人の一人。
何を考えているのかわからないトラブルメイカーではあるが、嫌いではない。
私に気安く話しかけてくる人間は殆どいなかったので、彼には感謝しているくらいだ。
しかし、今はその存在が酷く恨めしい。
このような気持ちを抱くなど、矢張に申し訳ないと思う反面、その名前すらもう聞きたくない。
理由は…私自身にもよくわからないのだが。
共通の友人と二人で飲みに行けば、私のような世間話の出来ない人間でも矢張の話題で会話が途切れることはない。ありがたい存在だ。
だが、相手が矢張の話ばかりしてきた場合…なかなか精神的にキツいものがある。
その相手というのが成歩堂龍一なのだが…
何故二人で飲みに来たというのに、矢張のことばかり話すのか。
確かに、私の知らない間も連絡を取り合っていた彼と矢張が、どんな学生時代を送っていたかは気になる。
だがそこに私はいなかったという事実が辛い。
私は始終イライラしてたまらず、しかし彼が楽しそうなので表面には出さずにいた。
私はこんなつまらないことで腹を立てる人間だっただろうか…
いっそ深酒に逃げられれば良かったのだが、私は車で来ていた。
飲み屋に来るのに車とは明らかに間違った選択だが、成歩堂から呼び出されたなら何も考えず飛んでいくのが筋というものだろう。
そんなわけで、素面でイライラする話を延々聞かされ、もう気力が尽きかけたころに、成歩堂が酔いつぶれた。
仕方がないので私の車まで引きずっていき、助手席に座らせた。
すると彼は気持ちよさげに眠ってしまい、私はそのまま車を発進させた。
人をイライラさせておいて自分だけ気持ちよさそうに眠るとは…しかも暫くして「矢張ぃ」などという寝言をいうものだから…

私の中で何かが切れたのを確かに感じた。
あれは何というのだろうか。時限爆弾の最後の二本のうち誤った方の導線…とでも言おうか。

私は彼が酩酊しているのをいいことに、彼の家の方角でも私の家の方角でもない道へ車を走らせる。
30分くらい走って、今に至る。

日が出ていれば海が見えるであろう高台の駐車場に車を止めて、まだ助手席で眠りこけている成歩堂を眺めた。
大きな黒い瞳は閉じられて、常よりも少しだけ年齢が上に見える。変な形の眉や少しかさついた肌が、仄明るい常夜灯の光で私の目に映った。
何故なのか、もっと近くで見たくて、私は自分のシートベルトを外す。
自分で自分がよく解らない。
何故こんな場所に来たのかも、何故彼を見つめているのかも、何故胸が痛いのかも。そして何故、彼の半開きの唇に、自分の唇を重ねているのかも。

「…ん」

成歩堂が僅かに呻いた声にドキリとするも、目を覚ます様子はなくて…私はもう一度、彼の唇を奪った。
少しかさついた弾力のある唇は温かくて、胸が締め付けられる。その距離まで近付いていると、彼の纏う香りまでが感じられ、どうしようもない思いに駆られてしまう。
触れたいと、そう思った。

「成歩堂…」

外は雨が降り始めている。このまま豪雨になりそうだ。
穏やかに幸せそうに眠る彼の、赤いネクタイ。それを近距離で眺めながら、ああ、これをほどいて、白いシャツを脱いだ彼は、どんな風だろう。そんなことを考える。
私と違って血色のいい肌だろうとか、そんな妄想を。
一度考えてしまうと、もう止まらなくて…私はついにそのネクタイに手をかけた。
する、と軽い音を立ててほどけるウィンザーノット。
背徳感と罪悪感…そういうものが、私の中でないまぜになって、訳が分からなくなる。
それでもシャツのボタンに手をかける私を突き動かすのは、彼に触れたいという欲望だった。
私が理性を詰め込んだ水風船ならば、その欲望は針。尖ったその先端の一突きで全てが…決壊する。
シャツを左右にはだけさせて、その上半身が露わになった。
心臓が痛む…本能が私を動かして、助手席のシートを倒し、彼に覆い被さっていた。
スポーツカーのシートは恐ろしく狭くて圧迫感があるが、密着したいのだから関係ない。
シートの隙間に手を置いてその姿を間近で見てしまうと、欲望が体を勝手に動かす。手を伸ばしてあらわになった胸にそっと指を這わせると、人肌のぬくもりと感触が伝わった。
寝息に合わせて上下する胸の下の筋肉、骨、見たことも触れたこともない成歩堂の身体。
静かに、急速に、血液が沸騰していく。ひとに触れるとは、こういう感覚なのか。
いや、人に…ではないな。
成歩堂龍一、だからこそ。
ああ、そうか。私は彼のことが…

「…好きだ、成歩堂」

もう一度キスをして、私はついにベルトに手をかけた。
今ならまだ戻れると分かっていたが、成歩堂の全てが見たい。知りたい。
私の知らない成歩堂の15年間を知っている矢張。
矢張の知らない成歩堂を知りたい。
私しか見たことのない成歩堂を見たい。
…私だけのものに、したい。
自分でも驚く衝動に駆られ、青いスラックスに手をかけた。

「…御剣」

「…ッ!?」

途端、聞こえた声に顔を上げると、成歩堂が瞳を開いて私を見つめていた。

「何、してんの…」

極めて冷静な彼の声と表情に、私の脳はフリーズした。
しかしそれも一瞬のこと。もうここまで来たら冗談だと言って笑っても通じないだろう。
どうせ全てを失うならば…代わりにただ一つを得たほうがいい。
怯むわけにはいかない。もういっそ開き直ってやる。

「見て分からないのか」

下がりかけのスラックスに右手を突っ込み、下着越しに彼の中心を握りこんだ。
そこは勿論何の反応もない。

「検事ともあろうものが強姦しようってのか?」

「そうだ。…大人しく私のものになりたまえ」

柔らかいそれを手のひらで刺激してやると、こんな状況でもきちんと反応をした。
片手で腕を押さえつけ、唇は胸に這わせた。

「…っ、離せよ」

「離さない」

もうこのまま彼を、手に入れてしまおう。
その身体だけでも。
この想いに気がついた時にはもう、心を手に入れることは不可能な状況だったのだから。
もう彼が私を友人としてすら見てくれないだろうことは、明白だった。

「離せ!ぼくは帰る!」

抵抗する腕の力は、酔っ払いとは思えないほどに本気だ。
拒否されるのは当然だ、分かってはいるが…切ない。

「帰る?歩いて何時間かかるか分からないが」

私は彼のスラックスを無理矢理に引きずり下ろした。
似たような体格の男の抵抗を去なし続けるのには、なかなかに骨がいる。
それでも私は引けなかった。これが最後の繋がりになるであろうことを思うと、退くことなど出来なかった。
これが犯罪であると分かっていても。

「何時間かかっても、お前と一緒にいるよりはマシだ」

「……そうか」

途轍もなく重い一言だった。
私は胸に楔を打ち込まれたような痛みを受ける。
刃物は刺さったままならそうでもないが、引き抜かれた際に蓋を失った血液が迸る。
ああ、ならばこの楔が引き抜かれるまでは、足掻こう。
そう、思ったというのに。

「…泣きたいのは、こっちだよ」

「え…?」

私の瞳からは涙が溢れ出していた。真下の彼の胸に、ぱたぱたと水滴が落ちる。
どうして私は泣いているのだろう。

「ッ…く」

嗚咽が洩れそうになって唇を噛み締めた。どうなってもいいと、先ほど心に決めたばかりなのに。
止めようとしても涙は止まらず、どうしようもなく目の前の胸によりかかった。
彼は心底呆れたような溜め息を吐いて…私を拒まず、頭を撫でてくれる。
それが嬉しくて、余計に涙が溢れた。

「成歩堂、なる…ほ…」

「うん…御剣。何でこんなことしたの」

「キミが…好きで…っ」

「…そう」

成歩堂は私の言葉を聞いて、ただ一言返しただけだった。
気持ち悪い、などと言われないだけ良いのかもしれないが、その後に続く沈黙は重すぎる。
激しい雨音があって良かったと思うほど。
だからと言って返事を強要など出来る筈もない。こんな風に泣きながら、先ほどまで遂げようとしていた行為を続けることなどは、もっと出来るわけがない。
彼の中心に触れていた指をそっと離し、その胸に身を預ける。
私の中で生まれて急速に育っていた悪の芽は、彼の瞳に見つめられるだけで一瞬で消え去った。
この瞳に映ることが出来るのなら、一生友人というポジションでいい。
だがそれを説明したところで信じては貰えないだろうし、起こしてしまった事実は変えようもない。
彼は私をもう友達としても見ないだろう。嫌悪するだろう。
…いや、もうしているはずなのだ。
なのに彼は、私の頭を撫でるばかりで…

「な…るほ、どう…?キミは…」

「何?」

「私と、まだ…友人でいてくれるのか?」

その質問を口に出すのはとても辛かった。
しかし、彼が優しい素振りを見せるから、私は心のどこかで赦されると思ったのかもしれない。

「御剣」

名を呼ばれ、涙で汚れた顔を上げた。このような顔を晒すのには抵抗があったが、彼の声色がそれを求めている気がしたから。
体を少し浮かせて彼を見下ろすと、真っ黒な瞳が、僅かな光を拾い上げて閃く。
そして彼は、…笑った。

「…無理でしょ」

一瞬、脳がついていかなかった。
それは当然の答えだというのに。
私の考えは私に都合のいい妄想でしかなかった。それだけだというのに。
私は彼を見つめたまま、嗚咽も上げられないままに涙を溢れさせた。

「だってそうだろ?自分を強姦しようとする男と、お前なら友達になれるの?ぼくなら今後、顔も見たくないと思うけどね」

「……、すまなかった…ッ」

「謝られても…ね」

「ごめんなさ…い…」

涙が次々溢れる私をまだキミは撫でてくれている。何故なのか私には分からない。
冷たい言葉を吐きながら笑顔のままの彼が…何故か恐ろしく感じた。
しばらくそうして見つめあっていると、成歩堂は一瞬表情を無くしてから、私に問いかけた。

「…ううん。どうしても友達でいたいの?」

私はその言葉が脳に届くと同時に頷いた。何度も何度も、泣きながら。
そうとう滑稽な図だろうが…私はそれどころではない。
カンダタが掴んだ蜘蛛の糸…まさにそのような気持ちだ。

「それなら、考えてあげないでもないけど…」

「ほ、本当か…!?」

「ただし、条件が聞けるなら」

「え…?」

条件、という言葉を持ち出した成歩堂の顔には、いつもの微笑みが戻っている。
それを見た時、心はすぐに決まった。死ねという条件以外なら、何でもしようと。

「…分かった」

「あれ、良いの?条件を聞かなくて」

「私や他人の命に関わること以外ならば、なんでもする」

「そう…良い心がけだね」

彼はシートに片肘をついて上体を持ち上げ、もう片手を私の頬に添わせた。
そして、吐息がかかる程の距離まで唇を近付けて、囁いた。

「じゃあ、ぼくの好きな時に、好きなだけ、きみを抱かせて?」

…激しい雨の音さえ、私の耳には届かなくなった。





私は再びハンドルを握り、夜道を走っていた。
隣に座る彼は上機嫌だが、私はこのまま逃げ出してしまいたかった。運転している私には、可能だ。
だが、それをした時点で…成歩堂は私を友人として扱わなくなるだろう。
それが恐ろしくて、彼の言うことに従うしかなかった。
やたら派手に点滅する看板を見て嬉しそうに笑う彼の、右折を促す声にも。
…先ほど彼は言ったのだ。駐車場から車を走らせ、一番最初に見つけたホテルに入ると。
そして…私を抱く、と。
何をされるのか分かっていて私は…自らの手で、ホテルへの道を走らせるしかない。
気が狂いそうだ。

右折するとすぐに、派手な装飾の建物が目に入る。彼に促されるまま、空いているスペースに駐車した。
彼は先に車から降りてしまいこちらを見ているが、私はもう、少しも動けない。
血の気が引いているのだろう、手が震えてシートベルトが外せない。車外に出たくない。このまま逃げ出したい。
私が、彼に抱かれる…?
想像すら出来ない。
吐き気がする。

「…御剣、どうしたんだ?さっき約束したよね」

いつの間にか、彼は運転席側のドアを開けて側にいた。
弾かれたように顔を上げると、彼の何か言いたげな瞳と視線がぶつかる。
『友達を止めても良いんだよ』
そう聞こえた気がして、私は焦って車から降りた。

成歩堂に付いて室内に踏み入れる。
もはや頭が真っ白になって、私の顔面はおそらく人形のように蒼白で表情がないだろう。
彼が脚を止めたのは勿論、大きなベッドの前。真っ正面に対峙したその瞳を見られず、目をそらした。

「脱いでよ」

「…なっ」

「出来るよな?」

私は唇を噛みながら上着に手をかけた。
拒否権は与えられていないのだから。
脱いだスーツをハンガーにかけたり畳んだりする気力などとても無く、肩から抜けるままに床へと落とした。
彼の前でこれ以上脱いだことはない。
いや、人前でクラバットを外したことすらない。
それだけに、首を守る柔らかな白い布に手を掛けている自分は…自ら抱かれる準備をしているのだと、改めて強く感じる。
彼の視線から逃れるように瞼を臥せ、クラバットを引くと、する、と軽い音を立ててスーツの上へ落ちた。
普段隠しているからだろうか、彼が私の首筋を凝視しているのが分かり、泣きそうになる。
成歩堂は私に性的な欲求を抱いているのだろうか…?
…どうしてこんなことになったのだろう。

「ほら、ベストとシャツもだよ」

冷たい声に、再び手を動かす。
手が震えて上手く外せないことに、悲しみと苛立ちが募った。
時間をかけてようやく上半身の衣服を全て取り払う。
私はやたらと色は白いが、腹筋は割れているし、ノーマルの男の欲情を誘うことはまずないだろう。
性欲処理をさせようとしているなら、もっとマシな相手がいるはずだ。
萎えて、諦めてくれないか…一縷の望みを胸に彼を見た。

「下も脱ぐんだよ」

無情にも笑顔を浮かべられ、もう諦めるしかなくなってしまう。
スラックスを下ろして、下着をも取り去る。
思わず噛み締めた唇から鉄の味が滲む。私はおそらく酷い顔をしているのだろう。
だが彼は何故か嬉しそうに…部屋の半分を占める大きなベッドに私を押し倒した。

「…な、ッ」

「しようか、御剣」

両脇の間に手をついて、私の脚の間に片膝を置いて、彼が至近距離で見下ろしてきた。
こんな状況下でなければ、どれだけ嬉しかっただろうか。
これを…怖い、と、いうのかもしれない。

「いや…だ…」

小さく声が洩れてしまう。
それを聞いて成歩堂はクスッと微笑んで、私の脇腹に指先を滑らせた。
くすぐったいような感じがして、私の身体が小さく震える。

「今更。自分で運転して此処に来て、自分で服を脱いだんだろ?」

小さく喉を鳴らした成歩堂は、今まで見たこともないほどに雄の表情を浮かべている。
…何故だろうか?鼓動が乱れた気が、した。

「肌、キレイだね」

その武骨な指先が私の剥き出しの上半身を撫でていく。
されるがままになるしか道はなく、シーツをぎゅっと握り締めた。
温もりを持った手で触れられると、互いに気持ちの伴わない行為でも、僅かに心地よさを感じてしまう。

「…く」

その指先が胸の先端に触れ、押しつぶしてくる。
僅かにむず痒いような感覚に、自然に目を細めてしまっている。

「そんなには感じない?ま、はじめてならこんなもんか」

成歩堂は両の突起を弄りながら言い、その後何かを思いついたように、あ、と呟いた。

「御剣、処女だよね?」

「しょ…」

何を言っているんだ、この男は。
私は男だ。無論このような行為に及んだ経験はないが。
答える義理はない。

「うーん。じゃあ、童貞?」

「……死ね!」

反射的に蹴り上げようとした脚を掴まれ、左右に割り開かれた。
腹につくように曲げられ、私の秘められた場所が彼の眼前に晒されてしまう。

「トモダチに向かって死ねだなんて酷いな、御剣」

「う、煩い…ッ!」

成歩堂がこんな最悪な奴だとは思わなかった!
あの可愛らしい瞳のどこにこんな陰湿さを隠していたのか。
しかし私はそれを知った今でも、友人でいる為の契約を果たそうとしている。
そうまでして…彼から離れたくない、のだろう。
自分のことだいうのに、ぐちゃぐちゃに絡まってどれが正しい回路なのかわからない。

「…あッ!?」

突然、意識を引き戻された。
ふと見ると、成歩堂が私のそれを……口に含んでいる。

「な…!」

慌てて引き剥がそうと彼の肩に手をかけたが、弱い電流を流されたような感覚が走り抜けて、私は力を失った。
彼の舌と唇、口内の粘膜で扱かれ、刺激される。
世間ではフェラチオ…という、やつなのか。

「あ…そんな…、嫌だ」

知ってはいたが、こんなことをされたのは生まれてはじめてで、頭が真っ白になる。
熱くて柔らかくて絡みついてくるような、わけのわからない感覚…認めたくはないが、快感というほかない。

「あ…あぅ…、ぅうッ」

唇からおかしな声が洩れるのを、耐えることすら忘れてしまっている。
裏側を舐めあげられ窪みを抉られると、ひとりで弄るのとは比べものにならない快感が体に火を付けていく。

「…やっぱり童貞なんだな、可愛い」

「き、貴様…」

「…じゃあ処女かどうかも、確かめてみようか」

再び私のものを舐め上げながら笑う彼は、指先で太ももを擽るように撫で下ろし、そのまま私の奥まった箇所に触れた。
体が強張り、喉がグッと鳴る。
男同士なら何処を使うのか…勿論知ってはいたが、あまりな現実を目の当たりにして、身が竦む。
…暴かれるのか?そんな場所を。
そして私は、こんな思いを彼に無理矢理味わわせようとしていたのか。

「嫌、だ。いや…」

「…怖い?」

私の様子がおかしいことが伝わったのか、彼は顔を上げて私を覗き込んできた。
至近距離に黒い瞳が見えて、また涙が溢れたのが分かった。

「嫌だ、止めてくれ…成歩堂」

「…別に良いけどね、それでも」

「……!?や、あ…あ!」

乾いた指が、押し入ってきた。
摩擦による痛みよりも驚きのほうが強く、目を見開く。
抵抗も出来ずに半ば呆然とする私の首筋にキスを落として、彼は低い声で囁いた。

「ぼくにこういうことしたかった?残念だったね」

…感情が伴わないコレは、もはや暴力だ。
あの時一方的に犯そうとしたことを、完全に後悔している。そう言ったなら、彼は信じるだろうか。
いや、おそらく「ああ。そう」とでも言うのだろう。

「…やっぱり潤いがないとダメか…」

突然そう呟いて、成歩堂は指を引き抜いた。
そしてベッドサイドへと手を伸ばし、四角いコンドーム大の袋を手に取る。私に見える位置でそれを開き、中身を手に絞っている。
粘着質な液体だ。
それが何か分かってしまい、私は目をそらす。
遠慮ない指がまた後ろに触れ、貫いてきた。不快感はあるが、先ほどより簡単に奥まで侵入してくる。
明らかに潤滑油のせいなのだが、滑らかに受け入れてしまうのはまるで私の体が抵抗を止めたかのようで居たたまれない。
異物が、私の中を行き来し始めた。
大した痛みはないが、気持ち悪さにシーツを強く掴む。
指を増やされると空気が入ったのか、内部からぐちゅぐちゅと音が立って聴覚を犯す。
それに激しい羞恥を覚え左右に首を振ると、成歩堂は嬉しそうに笑って更に抜き差しを早めた。

「くっ…ぅ、ぐ」

「気持ちよくなりたい?」

唇が触れそうな距離で囁かれ、問われた言葉の意味を考える。
この行為に快楽を得たいか。そう尋ねているのか…

「要らな、い…」

左右に首を振った。
成歩堂の手で犯されて、女のようによがる姿を晒す羽目になるくらいなら…痛いほうがマシだ。

「…そ」

彼がニヤリと笑った…気がした。
指が動いて、私の腹側を探った途端…衝撃が走った。

「っ!ひ…!」

突如、体の中心を突き抜けていくような快感が襲う。
痺れと言っても良いかもしれない。
そのままそのポイントを強く刺激され、わけがわからなくなったが、一つだけはっきりしたことがある。
成歩堂は私の気持ちを分かっていて、最大限傷付けようとしている、らしい。

「あぁ、あっ…酷い…成歩、堂!」

「だって、ヤるなら感じて貰わないとつまらないだろ?」

肩を押し返すが、彼は私の手首を掴んで押さえつけ、私の耳を唇で挟み込む。
吐息を吹きかけながら内部を刺激されて、のし掛かられた体が彼とベッドの間でビクビクと震えてしまう。

「御剣」

私を呼ぶ、低くて性的な声色は、本当にあの成歩堂のものなのか…?
私はこの男のことを何も知らなかったと思い知らされる。15年間離れていたせいではない…おそらく誰も、ずっと一緒に居たあの男も知らない彼の顔。
私しか知らない彼、確かにそれは私が望んだもの。
気付いた瞬間、胸の内に何かが湧き上がってきたのを確かに感じた。
泣き出して逃げてしまいたいくらいだというのに、胸を満たしていく…薄暗い、優越感。

「は、ぅあ、ぁあ…ん」

「ん。良いカオに、なってきたね」

自尊心と優越感の二律背反、とでも言うべきか。
私は抱かれることを全く望んではいない。成歩堂は私を好きだから抱いている訳ではない。分かっている。
その完膚なきまでのマイナスポイントを考慮しても、私の下らないプライドと釣り合う。それほどまでに、成歩堂に執着してしまっている私。
もう逃れることなど、不可能かもしれない。

「挿れるよ」

声が聞こえて気がついた時にはもう、それがあてがわれていた。
私の返事を待たずに力が込められて、身体を貫かれた。

「―――!」

「キツいよ、力抜いて」

「む、りだ…」

熱い。これが人の体温なのか…?
圧迫感や痛みよりも熱さで溶けそうだ。
成歩堂…キミに与えられるこの感覚を知っているのは、あと何人いる?

「はぁ、あ、はぁ、は…」

「背中に手を回しててよ。ね」

言われた通りに、ぎゅっと彼にしがみつく。
そうしたら成歩堂は私を抱き締め返して、唇に柔らかいキスを落とした。
まるで恋人のようなやり取りに何か思う間もなく、彼は私を突き上げ始めた。










気絶してしまった御剣の頬をそっと撫でる。
苦しげに寄せられた眉間は、ぼくを思ってなのだろうか?
身体だけの関係でも、もう離れることは許さない。
これは罰だよ、御剣。
15年間、ぼくを想い追い続けたなら…
その時は本当のコト、教えてあげる。


END






ヒロノさんに捧げます!
頂いたリクエストは『ミツナルからナルミツに逆転、ヤハリに嫉妬するミツルギ。車の中でなるほど君に襲いかかるミツルギ。実は童貞』でした。
童貞を全面に押し出したらこんなになってしまいましたww申し訳ないです。背中を床に着けて逆土下座します。