「怜侍、今日は記念日らしいな?」

藪から棒にそう問われ、御剣は困惑した表情を浮かべた。

「…何故キミがそれを…」

持っていた万年筆をデスクに置きながら、自分とよく似た男を見上げる。
長身の彼はデスクに手を突いて身を乗り出し、チェアに腰掛けた御剣を覗き込んだ。

「私だけではない、キミ達の関係者は全員知っているぞ。龍一が触れ回っていた」
「…それは本当か、エッジワース…」
「現に私は知っているだろう」

あの馬鹿、とでも言いたげに眉間にシワを寄せて御剣は頭を抱えている。
エッジワースは特に構わず、デスクを周りこんで横まで来た。

「何か用意したのかね」
「…何かとは?」
「贈り物に決まっている」

そう尋ねながら、エッジワースはデスクに手をかける。
一番下の引き出しを、御剣が止める頃にはもう開け終わっていた。

「…ネクタイか」
「…勝手に引き出しを開けるな!」

中にあったのは細長い包み。
赤いリボンで綺麗にラッピングされた細長く薄い箱は、中身こそ見えないが一目でネクタイと解る形状だ。
それをエッジワースから奪い返し、盛大な溜め息を吐いた。

「…用意しているが?それがキミに何の関係があると?」
「いや、関係はないんだが。こういう節目は人により思いの外大切だからな」

そう言われ、思い浮かんだ恋人の顔。
彼がいかにも記念日を大事にしそうなコトくらい、いくら恋愛に疎い御剣でも解っていた。
エッジワースがそんな気を回してくれた事が少しばかり嬉しいのか、御剣は表情を緩ませる。

「…泣き出されても困るからな」
「くく、大変だな…お前も」

ピカピカのデスクに置かれたその包みを、エッジワースの長い指先が軽くなぞった。
こちらも恋人の姿を思い出したのか、瞳を細める。

「…成歩堂は泣くかもしれないな。ただし、感涙だ」
「大袈裟な…」

クスクス笑いながらの言葉を呆れたように否定するが、その様子を想像するに難くない辺り、あり得るかも知れない。
青い包みに掛かった赤いリボンを弄びながら、そんなことを考えていると、エッジワースは御剣に更に近付き、耳元で囁いた。

「感激するさ、「ネクタイと一緒に私をやる」とでも言えばな」
「……!」
「するんだろう?ネクタイでの拘束プレイは基礎だぞ」
「………――〜〜出ていけッ!」








その日の夕方。
成歩堂の自宅に向かう御剣の足取りは重かった。
気が重いわけではない、文字通り足が重い。
仕事の疲れも当然のようにあるが、朝から晩まで一日中からかい倒されたせいで余計な疲労感を背負っている。
エッジワースに至っては一時間に一度ほど顔を見せたような気がする。
フェニックスもついて来た時は、追い返すのに苦労した。

「…はぁ…」

普段でも忙しいというのに、夕方早めに上がるための調整で相当キツかったようで、盛大な溜め息が洩れた。
それでも恋人の顔を思い浮かべれば幸せな気持ちになる。
プレゼントをしまったアタッシュケースを撫で、アパートの外階段を上っていく。
安っぽい金属の階段は靴底があたるたびカツンカツン音を立てて喧しいが、一歩ごと心が高揚するのも事実。
いつも部屋の扉を開けた途端に、成歩堂は満面の笑顔で御剣を抱き締める。
それを想像して緩む頬を手のひらで覆いながら、チャイムを押した。
ピンポーン、と間の抜けた音の後に、小走りのスリッパの足音。
チェーンロックを外す音、ドアノブを回す音。

「御剣!おかえり!」

迎えたのは、やはり満面の笑顔の成歩堂。
扉をしめるのとほぼ同時にぎゅっと抱き締められ、頬を擦りよせられる。

「…こら、成歩堂…。」

宥めるような言葉をかけながらも、その手は成歩堂の背中に回される。
尖った髪を優しく撫でてやると、機嫌良さげに笑った彼は御剣にキスを落とした。

「おかえり」

微笑みながら言われたその一言だけで、御剣は心を溶かされるような感覚を味わう。
成歩堂の家に来る度に、彼はおかえりと言う。最初は違和感を感じたものだが、最近では嬉しくて仕方がない。
自分の帰る場所は此処なのだと確信出来る。

「挨拶は?御剣」
「……ただいま」
「うん、おかえり」

じんわりと染み入る温もりを肌に感じながら、成歩堂の肩越しに台所の様子を眺める御剣。
ことこと音を立てている鍋、蒸気を噴く炊飯器。料理の香りが鼻腔をくすぐって、御剣の腹が鳴った。

「…ほら、ご飯にしようか」

クスクス笑いながら優しく頭を撫でられ、御剣は小さく頷いた。
しかし離れがたくて、肩に頬を擦りよせ首筋にキスを落とす。
その様子に気付いてか、黒い瞳を細めて愛しげに微笑む成歩堂。
離れたくないのは彼も同じのようで、赤いジャケットの袖を撫で下ろして、色の白い指先を絡め取る。
そのまま軽く引き寄せ、額にも口付けをしてから体を離した。

「ほら、靴脱いで」

言われるまま靴を脱ぎ、繋いだままだった手を引かれフローリングに上がる。
御剣のために容易された赤いスリッパを履き、リビングの椅子に座る。
そこでようやく手を離し、ちょっと待ってね、と言って成歩堂は台所に消えた。

「…はぁ…」

テーブルの上にはいつもより気合いの入った食事の用意がほぼ整っており、それを眺めながら溜め息を吐く。
贈り物をあまりした事がない彼は、プレゼントを渡すことを考えると少し緊張してしまうのだった。
足元に置いたアタッシュケースに視線を落として、渡すタイミングを考えてみる。
しかし御剣にはいつが良いのかさっぱり分からなかった。
テーブルで頭を抱えて呻いていると、成歩堂がスリッパの音をさせて戻ってきた。


「御剣…?体調でも悪いのか?」

頭痛か何かと勘違いしたような心配げな声に、御剣は飛び起きた。

「いや、大丈夫だ。」
「そうか…?なら良いんだけど…」

言いながら、温かいご飯の盛られた茶碗をテーブルに二つ置く。
いつの間にか食事の支度が整っており、成歩堂が御剣の正面に座る。
彼の料理はいつも美味しそうだ。

「御剣、ジャケット脱いだら?」
「…ああ、そうだな」

赤いジャケットを脱いで椅子にかけ、窮屈なクラバットも外した。
ラフな姿になった御剣を眺めながら、そうだ、と呟いた彼はまた立ち上がり、台所に戻っていった。
からんからんという音の後に、戻ってきた彼の手にはボトルが抱えられていた。

「お祝いだからさ、これ。乾杯しよう」

満面の笑顔を浮かべて、御剣にそれを渡す。
少し濡れている所を見ると、水と氷で冷やしていたようだ。
先ほどの音はそれか、と思いながら受け取り、テーブルの上のコルク抜きを手に取る。
成歩堂はコルクを開けるのが苦手らしいので、暗黙の了解というやつだ。
御剣は鮮やかな手際で栓を開け、立ち上がるとワインをグラスに注いでいく。
白のスパークリングワインだった。

「…相変わらずお前は格好いいな…」

片腕でボトルを支えながら注いでいくソムリエばりの手際に、成歩堂は感嘆のため息を洩らす。
御剣は少し機嫌を良くし、お辞儀してみせた。

「ボトルを戻したいのだが」
「…?ああ、台所」

ボトルを戻そうと台所へ向かった御剣が見たのは、水と氷が張られた水色のバケツだった。
彼らしいな、と笑い、バケツごとリビングに運んでくる。

「さぁ、乾杯しようではないか」

椅子に座り直し、ふたりはグラスを持ち上げる。
傾けるとグラスが小さな音を立てて、細やかな泡が弾けていく。

「一年、おめでとう」

成歩堂が優しい声で言い、二人はグラスに口を付けるより先にキスを交わした。






食事を摂り終わり、御剣はシャワーを浴びにバスルームへ向かう。
成歩堂は御剣が来る前に風呂に入ったらしく、リビングのソファーで寛いでいる。
ひとりになると、また色々と考えてしまう。


(プレゼント…乾杯のタイミングで渡せなかったが、次はいつが良いだろう。
風呂上がりに渡すのもおかしいが、明日になるのもマズい。
しかしあまり夜が更けてからでは、エッジワースが言ったようなことを期待していると思われるかもしれないのではないか…?
…それは困る…
………いやいや!あんな馬鹿げたことを考えるのは奴だけだ!
……と断言出来るか?
もし拘束でもされてみろ……そのようなアレは…困る…
ならばいつだ?ああ、そうだ。眠る直前だ、それが良い。
しかし…するのだろうか?するのだろうな…しないわけがない…よな)


だんだんおかしな方へ思考が行きかけ、うううう、と呻きながら御剣は頭からシャワーを被った。
やたら時間をかけて身を清めると、髪を拭き、成歩堂のもとに戻った。

「ま…待たせたな」

ついぎこちなくなりながら声をかけると、テレビを見ていた彼が振り返った。
風呂に入った後にもかかわらず今まで私服を着ていた彼だったが、御剣がシャワーを浴びている間にスウェットに着替えている。

「おかえり」

へら、と笑顔で両腕を広げられ、ゆっくりと傍による御剣。
真っ正面に来てなおその体勢を崩さず笑顔を向けてくる成歩堂に、おずおずとその身を預けた。
狭いソファーに膝をついて肩口に頭を預けると、柔らかな吐息が耳に届く。

「みつるぎー」

優しく甘い声色で呼ばれ、ぎゅうっと背中を抱きしめられると、思わず瞳を閉じて溜め息をついた。

「いい匂い…」
「…キミと同じシャンプーだぞ?」
「じゃあ御剣がいい匂いなんだ」
「…馬鹿な」
「だって本当なんだもん」

二十代後半の男にはおよそ似つかわしくない甘えた口調で耳元に囁かれ、そのまま耳たぶを唇に含まれて、さらさらの銀髪が揺れる。
ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てながらキスしてくる彼から逃れるため顔をそらしても、離れる様子はなかった。

「ん…んんーっ…」

耳を弄ばれているだけで頭に血が上り頬が赤くなり始めたころ、御剣は少し強めに体を引き剥がした。
怒らせてしまったのかと思った成歩堂が少し慌てて御剣を見ると、顔を赤くし耳を押さえて震えている。

「…御剣」

拒絶されている訳ではないと分かった途端、成歩堂は御剣を落としにかかる。
もはや手慣れたものだ。
低く甘い声で名を呼び、極上の笑顔を浮かべて銀の瞳を覗き込んだ。

「…っ」

成歩堂の膝の上に乗り上げた体は小さく震え、困ったように眉を下げる。
普段はあんなにつり上がっているのに、器用な眉だ。
半分しかないから表情が解りやすいのかな、可愛いな、と下らないことを考えはじめた成歩堂。
焦らされていると感じたのか、御剣の白い肌が余計赤く染まっていく。

「ああ、肌が白いから、ってのもあるな」
「…は?」
「照れてる時、わかりやすいの」

言い終わると同時に、ピンクのパジャマに手をかける。
ボタンをひとつ開けたところで、成歩堂は大事なことに気が付いた。

「あ…」

急に動きを止めた成歩堂を見つめると、彼は数度大きな瞳をしばたかせ、片手を御剣から離した。
そのまま自分が座っているソファーの背を撫で回して、クッションの下に手を潜り込ませた。
無意識に目で追う御剣だったが、急に唇を塞がれて深いキスを送られてしまい、緩やかに瞳を閉じた。
ちゅ、ちゅ、と鳴る脳を溶かすような水音と、絡められた舌から駆け上がる寒気に似た快感。
舌に翻弄され、意識が散漫になっている御剣の右手をそっと取る。
無意識に指を絡めようとしたのをやんわりと制止し、キスを続ける。


「……?」

指に違和感を感じ、御剣はうっすら瞳を開く。
同時に唇を解放され、その違和感の正体を知った。

「…これは…」

そこには、ひんやりとしたシルバーの指輪がはめられていた。
その指は薬指。
驚いた表情を浮かべる御剣が顔を上げると、その先には彼の笑顔があった。
悪戯が成功した子供のような、ただの照れ笑いのような、言いようもない笑顔。

「…プレゼント、受け取ってくれるよね?」

そのまま絡められた指。
いつの間にはめたのか、成歩堂も同じ指輪をしている。
それの意図するところを知った御剣は、キスされてとろけた頭でクスクスと笑ってみせた。

「どうせなら左手にしたまえ、馬鹿」

ソファーの背もたれに押し付け額にキスをしてやると、成歩堂は数度まばたきをしてから、今度は喜びを露わにした笑顔を弾けさせる。

「みつるぎぃー!」

こいつの笑顔のバリエーションには驚かされるな。
しかもその殆どを私にしか見せないのだから、愛しいことこの上ない…

ぼんやりとそんなことを思いながら、その体を抱き締めた御剣。
すると、そのまま絡め取られて体をソファーに沈められてしまった。

「な…るほどう…」

思わず掠れた声で名前を呼ばれ、視線をあわせたまま服のボタンに手をかけた。
二つめ、三つめと外しても、御剣が抵抗することはなかった。
狭いソファーに身を預け、黙って黒い瞳を見上げている。
甘い沈黙のなか、微かな吐息だけが耳をくすぐった。
全てのボタンを外し終えると、裾を左右に開く。
視線が瞳から外され、御剣は自然と成歩堂の唇を見つめた。
しなやかな鎖骨から割れた腹筋までが露わになり、成歩堂はそっと息を飲む。
白い肌を壊れ物の輪郭をなぞるように優しく優しく撫でていく指先。
まるで性的な意味合いを持たないような触れ方だが、御剣は敏感に拾い上げていく。
それが成歩堂の指だからなのだろうと、彼の中では既に結論付けられていた。
きっと他の誰に触れられてもこうはならないと思う。
もっとも、他の人間に触れさせる気など毛頭ない御剣であったが。

「くすぐったい?」
「…いや…」
「…そう?ぴくぴくしてるけど」
「どちらかといえば…その、気持ち良い…」
「…え」
「だから、続けたまえ…」

今日くらいは、と素直な気持ちを言葉にした御剣に、成歩堂は一瞬動揺した表情を見せたが、直ぐに口元に緩やかな笑みを浮かべた。
彼も少なからずこの日を特別だと思っていることが解り、嬉しかったのだろう。
今度は手のひら全体で脇腹を撫で始め、滑らせていく。
肌の手触りを楽しみ、手のひらは小さな突起を捉える。
途端に過剰なほど体が跳ねたのは、これから訪れる感覚を知っている為だろう。

「…ぅ…」

僅かに呼吸を乱した御剣に視線を戻し、白い首筋に口付けを落とす。
同時に小さな突起を摘まんで刺激しはじめ、開いた方の手も反対側の胸に添えられた。
唇は首筋から移動し、鎖骨を緩くなぞっていく。
成歩堂はやたら器用だ。
はじめの頃は、こうして翻弄される度にちいさな痛みを覚えていた。
手慣れている行為に、恋人の過去を感じて。
…自分がそんな事に嫉妬するなどとは思っていなかったので、少し驚いた。

「ん…あ…、っ」
「気持ち良いよね、御剣」

けれど、一年たった今では恥ずかしいだけで、与えられるものを素直に受け止められる。
彼の愛は間違いなく自分にしか向けられていないと、嫌というほど思い知らされているから。

「成歩堂…っ」

片手が下半身に滑っていき、パジャマの下をずり落ろす。
御剣が思わず身を捩ると、そう大きくないソファーがぎしりと鳴った。
ズボンと下着を剥ぎ取ってしまいながらそちらを観察して、成歩堂は卑猥な笑みを浮かべる。
ぺろりと舌なめずりする姿に居たたまれず目をそらし、きゅっと唇を噛み耐える御剣。

「感じやすいね…」

露わにされた彼自身は既に硬度を持ち、しっとりと濡れてしまっている。
わざわざ口に出して指摘し、羞恥を煽るやり方に、御剣はいまだに慣れない。
けれどその身の浅ましさを指摘してさえ、成歩堂は軽蔑するでもない笑顔を浮かべると最近は解ってきた。
だんだん変わっていく。
体も、心も。

それは成歩堂も同じで、御剣との時間を過ごすほどに愛しさは増していくばかりだ。
一年なんてものではなく、もうずっとずっと好きで、これ以上好きになりようがないとすら思っていたのに。

「っ…ん、ん」

中心に触れた指先が、熱い固まりを上下に扱いていく。
先端を親指で弄るとぬるりとした粘液が付着し、滑りを良くした。
それを利用して素早く手を動かし、追い立てていく。
濃いピンクの肉はまるで、肌の白い御剣のものではないように見える。
けれど当然、それの立てる水音と連動して彼は高まっていった。
きりきり、と背中に爪を立てられる。
噛み締められた薄い唇に、成歩堂は優しいキスを落とした。

「イッちゃう…?御剣」

耐える表情に欲情しながらも、優しい声色で問う成歩堂。
頬を撫でられ、噛み締めた唇をぽろりとほどいて小さく頷いた。
胸の突起を甘く噛み吸い上げながら手の動きを早めると、御剣は身を丸めて喉の奥を震わせた。

「――ァ、は――ッ!」

掠れた吐息に飲まれそうな、熱い空気に溶けてしまいそうにか細い音で喉が鳴った。
同時に、どくどくと脈打った彼自身からは熱い白濁が散り、大きな手を汚す。
手のひらに受け止めきれず、重量に従って白い体にポタポタ滴るものを眺め、御剣に視線を移す。
彼は両の瞳を閉じて短く息を吐き出し、ぐったりとソファーに身を委ねていた。
その様子が可愛くて少し観察していると、瞼が薄く開かれ銀の瞳が成歩堂を見つめる。

「どう…した?」
「え?」

どうやら、いつもならがっついて来る成歩堂が動かないことを不審に思ったようだ。
御剣は少しダルそうな表情で見つめたかと思うと、突然成歩堂のズボンに手をかけた。

「え、ちょ、御剣?」

困惑した黒い瞳を睨み付ける銀の瞳。
一見するとそうとう機嫌が悪そうに見えるが、緊張している時にもこういう表情をする。
多分後者だと知ってはいても、やはり少し怖くて困ったように眉を下げた。
大人しく御剣の行動を見守っていると、膝までズボンを下ろし露わになったものに、指先を絡められ成歩堂は狼狽する。
そのまま上下に動き始める手。
真下の彼を見ると、赤黒く脈打つ成歩堂自身を凝視していることに気付く。

「あ、あんまり見るなよ」
「……キミはいつも見るだろう…」
「そそ、そうだけど…」
「黙っていろ」

たどたどしく動かされる手、彼の表情は愛撫をしているとは思えないほどに固い。
緊張しているのが伝わり、成歩堂は目をそらした。

(…嬉しいけど…こっちまで緊張して勃たないよ…)

苦笑を浮かべ、緊張をほぐすよう髪を撫でてやりながら、御剣の頭と背を抱き起きあがらせた。
ソファーの背もたれに預けられ瞳をしばたかせた御剣に、優しく微笑む。

「上においで」

隣に腰掛けながら両手を広げてみせる彼に視線で促され、御剣はゆっくりとした動きで彼の膝を跨いで座り直す。
向かい合う形になって腰を引き寄せられると、裸の下半身同士が触れた。
緩く芯を持った肉棒が触れ合い、思わず腰を引こうとしたが叶わず、成歩堂を見る。
笑顔の彼に手をとられ、2人分の熱へと導かれてしまう。

「…っ」
「ほら、して」

渋る御剣を促すよう、軽く腰を揺らす。
先ほど達した御剣のもので濡れた自身が擦れ、それらを握った手が小さく跳ねた。
はぁ、と小さな溜め息を吐いて、堪忍したように手を動かしはじめる。
それを見届けてから、腰に回した手を下ろしていき尻を撫でる。
成歩堂の膝を跨いでいるために開かれていた脚の間、奥まった箇所を五本の指でくすぐる。

「…ふ、っ…」

くすぐったさにも似た感覚が背筋を抜け、びくっと体が跳ねる。
そのまま入り口をなぞりマッサージを加えていく成歩堂。

「ほら…手、止めないの」
「あ、ああ…すまな…いっ」

御剣の白くて長い指先が赤黒い塊を纏めて扱き上げ、先ほど腹にかかった精液が伝い濡らしていく。
その卑猥な光景とたどたどしい愛撫に、徐々に高まる成歩堂。
それは御剣も同じようで、擦れ合うお互いのものは欲望を露わにしていた。
ぐちゅぐちゅ響く音を耳に捉えながら、アナルを緩やかに解していく。
丁寧に襞を伸ばし、指先を埋めてはすぐに引いて、何度も何度も繰り返す。
御剣は入り口を弄られるのも存外感じる質で、だんだんと体に力が入らなくなっていく。
ソファーに座った成歩堂に上半身を預けた状態で、肩で息をしながらなんとか手を動かす御剣。
そちらに意識を半分やっているからだろうか、いつもより解れるのが早いな、と成歩堂は感じる。
緩んできた秘部に中指の爪先を埋めていくと、御剣は眉を寄せ成歩堂の肩口に顔を埋めた。
多少の違和感をやりすごすよう、瞼をきゅっと臥せて自身を刺激する。
熱く腫れたそれの凹凸を敏感な箇所がリアルに感じ取り、二人は互いに高まって余計に粘着質な音を響かせる。
互いの耳元で聞こえる吐息が荒くなっていくのを、ぼんやりとした頭の片隅で聞いていた。

「御剣…いいよ…上手」

上擦ってしまわないように出来るだけ優しく囁き、ゆっくりと指を内部に侵入させていく。
傷めないように反対の手で広げながら、なんとか奥まで埋めた。

「…大丈夫?」

優しく背中を撫でられ、御剣は絞り出すような溜め息を吐く。
唇を薄く開き、体の力を抜こうと呼吸を繰り返しながら、成歩堂に両腕で縋りついた。
手を離したことを咎めるでもなく、成歩堂は御剣に優しくキスを落としてから、指を動かしはじめた。
右手の中指をゆっくり抜き差しし、左手は入り口を丹念にほぐす。

「ん…ぅう…ッ」

開いたままの薄い唇が小さな呻きを洩らし、きり、と歯を噛む。
圧迫感と快楽を同時に受けるむず痒いような感覚に、その手を振り解きたくなるのを堪える御剣。
不快なのか快感なのか解らない上、振り解きたいのにもっとして欲しくて、ワケがわからなくなって。
もうどう仕様もなくなって成歩堂にキスを強請る。


「……ん」

花が咲くように表情を綻ばせて、顔中にキスをする成歩堂。
唇を合わせるとそのまま、中指で御剣の感じる場所を押し潰した。

「――うあッ!」

反射的に唇を離し、背筋を反らせて高い声を上げる。
構わずにその箇所を一気に責められ、御剣は頭が真っ白になって喘いだ。

「あ、あぁあ…!や、やーーっ!」

びりびりと走る痺れから逃れようとする腰を押さえ、御剣の感じる方法でひたすら刺激を与えてやる。
強く抱きつかれているために表情は見えないが、御剣がぐちゃぐちゃになっていくのが声と体でダイレクトに分かって、成歩堂は生唾を飲み込んだ。
興奮で喉がからからに乾く。

「御剣、気持ちいいの…?ねぇ…」

掠れきった声で尋ねるが、返事はない。
余裕がないのか、そもそも聞き取れていないのか。

「御剣、挿れたいよ…みつるぎ…」
「あ、あ…なる、ほどぅ…」
「ね、良いよね、もう…」

くっついた二人のものは濡れに濡れて、どちらのものかもう分からない。
二人はもつれあいながら、床に落ちた。
銀の髪がフローリングに散り、御剣の熱い体が冷たい床に触れる。
それに何か思う余裕もなく脚を抱え上げられ、熱い塊を押し当てられた。
そのまま、入り口を割る。

「――〜〜…ッ!!」

衝撃に白い喉が跳ねた。
背が反り体中に力がこもって、無意識で仕方がないとはいえ、成歩堂にも痛みを与えてしまう。
成歩堂はともすれば表情が険しくなりそうなのを抑えこみ、なんとか微笑み優しく頭を撫でてやる。
薄く瞳を開いた彼もそれに気付き、潤んだ瞳で笑顔を返した。
苦しいが、決して作り物ではない笑顔。
性別も何もかも超えてこうして繋がれることは、二人にとってまたとないよろこび。
そして、相手もそうなのだと知る度に堪らなく満たされる。

「大丈夫、だから…来たまえ、成歩堂…」

御剣の誘いに、迷わず乗った。
性急に押し込んでも痛むだけだと解っていても、互いに求めて止まない。
早く、早く、もっと一つになりたい。

「…ぐ…!うぅ、あ…」
「ごめん、痛いよね…ごめんね…」
「良い、平気…だ、からッ…」
「っ、御剣…入ったよ…」
「あ、ああ、成歩堂…」

ぴったりと、二人の皮膚がくっついている。
脈動すら感じられるほど近くに。
いっそ一つなのではないかというほど。
それを引き剥がすのが堪らなく惜しいと感じるのは、人間が動物という枠を超越したと言えるのだろうか。
ずっとこのままでいたいとすら思う。

「御剣…愛してる、愛してるよ…」

成歩堂は着たままだった上半身の衣服を投げ捨て、ぎゅ、と白い体を抱き締める。
愛しい温もりに御剣ははにかんだように笑んだ。

「私もだよ…成歩堂…」

背中に腕を回し引き寄せて、唇にキスをした。
セックスが精神にもたらす安心感を知ったのは、相手が彼だからだ。
だんだん、何もかもが変えられていく。
体も、心も、何もかも。
お互いに愛しあって、作用しあって、高めあって、変わっていく。
それは愛しい変化だった。

「一年間、ありがとう」
「なんだ、改まって」
「言いたくなったんだ」
「その言い方では、一年きりのようではないか」
「え、あ…ごめんごめん。これからも、よろしく」
「……よろしくな」

照れたように口元に手をあてた御剣、その指に光る銀の指輪。
引き寄せて優しく口付け、これから先の永遠を誓った。
緩やかに開始された律動、言い知れぬ快楽が二人を包んでいく。
やはり動物は動物だ。それは変えられない。
けれどただ欲望を満たす行為ではない。
子孫を残す行為ですらない。
ただただ、単純に、純粋に、至極簡単に、愛し合うだけの行為。
これまでもこれからも、ずっと。




END




翌朝。

「新婚さんみたいだな、御剣にネクタイしめて貰えるなんてー!」
「ピンクは趣味が悪すぎるので贈っただけだっ」
「ひでぇ…」


―――――――――



お疲れ様でした!
長くてすみません、自分でもビックリしました…
フリーってこんな長いの誰が持って帰るというの…

一周年アンケート得票数一位の「甘いの(裏)」でした。
投票して下さった方、読んで下さった方、本当にありがとうございます。
甘過ぎて自分で恥ずかしくなりました…。

成歩堂くんと御剣がこれからもラブラブでありますように!